田部康喜のTV読本

2019年10月10日

»著者プロフィール
著者
閉じる

田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 BSプレミアム「令和元年版 怪談牡丹灯籠」(10月6日~27日、毎週日曜午後10時)は、幕末から明治にかけて落語を芸術の域に高めた、初代三遊亭圓朝の大作怪談を完全映像化した作品である。圓朝の速記本は21章にも及ぶ。悲恋と殺人、盗み、裏切り、仇討ちなどが連鎖して、因果応報の物語が展開する。

(chainatp / gettyimages)

 牡丹を描いた手持ち灯籠を侍女に捧げさせて、美しい娘の幽霊が深夜にカランコロンと下駄の音を響かせて恋する浪人の元を訪れる「お露・新三郎」の物語は、落語や歌舞伎、映画、ドラマで幾度も取り上げられているが、この大作の一部である。ドラマは、時代劇としても最高傑作の水準である。「牡丹灯籠」の映像作品群のなかで画期となるだろう。

 第1回「発端」(6日)は、因果応報の絡み合う人間の業(ごう)を解きほぐしてみせる。時は、吉宗治下の寛保3年。旗本・飯島平左衛門の長男・平太郎(高嶋政宏)が、刀商の店先でささいなことから浪人の黒川孝蔵とけんかとなり、黒川を切り捨てる。平太郎は一刀無念流の免許皆伝の腕前だった。

 切られる直前、黒川は「ちょうどいい。こんなみじめな生活はうんざりしていたところだ」と吐き捨てた。

 平太郎は、心のなかで「切りたい。切ってみたい」と繰り返したのである。

 その事件から20年後、平太郎は父・平左衛門の名前を襲名して、江戸城の書院番の組頭にまで出世していた。父に仕えて以来の家来たちが老いてきたことから、若頭を求めいたところ、黒川孝助(若葉竜也)が候補者として現れる。平左衛門の問いに答える孝助の正体が、かつて切り捨てた黒川孝蔵の息子であることがわかる。幼いころに商家に預けられた孝助は、事件が世間に知られないままに処理されたことから、父を切り捨てた武士の名前を知らない。武士として立ちたいために、剣の道に励んでいる。

平左衛門「剣の修行は、敵を討つためか?」

孝助「違います。強いていえば、父のような弱い人間にならないためです」

平左衛門「弱いのは、そなたの父上ばかりではなかろう。自分の腕を試そうととした相手もくだらん男だ」

 平左衛門は孝助の仕官を許す。そこには、孝助の父親の敵である自分に対する、ある覚悟があった。

 平左衛門は、妻を病気で失う。可憐な一人娘のお露(上白石萌音)が残された。奥方付きの女中だった、お国(尾野真千子)が平左衛門に取り入って、側室のような振る舞いに及ぶようになる。なさぬ仲のお露は、お気に入りの侍女・お米(戸田菜穂)とふたりで、柳島にある飯島家の寮に住むことになる。

 お露を飯島家から追い払ったのは、平左衛門に愚痴をいいがてら計略を図った、お国である。お国は、新参者の家来の孝助につらく当たり、孝助もお国の挙動に不信感をいだいていくことになるが、そこにはいずれ因果の糸がつながっていくことになる。

関連記事

新着記事

»もっと見る