Wedge REPORT

2019年10月16日

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波紋を呼んだタニタの真意

 働き方改革に一石を投じ、波紋を呼ぶ企業も出てきた。体重計測機器大手のタニタは社員の「個人事業主化」を推進する。希望する社員はタニタを退職し、個人事業主となる。タニタは退職前に従事していた業務を基本的な業務として個人事業主となった元社員へ委託する。対価として、従来メンバーに対して会社が負担していた社会保険料、通勤交通費、福利厚生費といった諸経費を上乗せした形で、報酬を支払う仕組みだ。

 タニタと元社員の間の雇用契約は消滅するため、タニタが社員の労働時間や健康を管理する「義務」はなくなる。同社は17年1月より制度を開始し、個人事業主となった社員は全社員210人のうちの、26人と1割を超える。この制度を発案した社長の谷田千里氏は、働き方改革に対して次のような疑念を投げかける。

 「労働時間にキャップをはめ、労働基準法を守らない企業を淘汰(とうた)することは必要だ。しかし、われわれは同時にその先の未来についても考えなければならない。今ある仕事は効率化できるが、新しいことを生み出すには必ず時間がかかる。一律の労働時間削減によってイノベーションが生まれず、日本企業の生産性が下がっていくのでは、と不安を感じている」

 個人事業主となりフレキシブルな働き方ができるようになった反面、使用者と労働者の関係を解消し、対等な立場として業務委託契約を結べているのだろうか。タニタと個人事業主との間に、実質的な労使の関係が残ってしまうのではないか。タニタの個人事業主制度については、今後も議論を呼びそうだ。

 働き方の自由度が増す中で、長時間労働を防ぎ、社員の健康管理の強化を課題として掲げるのがユニリーバ・ジャパンだ。同社は16年7月より人事制度「WAA(Work from Anywhere & Anytime)」を開始。自宅、カフェ、図書館など、働く場所の制限もなく、5時~22時の間であれば勤務時間や休憩時間を社員が自由に選択できる「いつでもどこでも働ける」を先んじて始めた企業だ。

 人事総務本部長の島田由香氏は「WAAのような働き方では、社員が自由に働くスタイルを選べる反面、労働時間管理や健康管理は社員の自己申告という”性善説”に依存する面もある。もちろん、企業には社員の心身健康を守る義務があるが、企業が全ての責任を負うのは難しい。社員が自身の体調や精神状態の変化に気づけるヒントや場を提供することも必要だ」と語る。

 こうした課題は、自身の経営戦略として働き方改革にチャレンジしてきたからこそ見えてくるものだ。立教大学経営学部の中原淳教授は、「働き方改革を進める理由を政府や労基署のせいにしている企業はうまくいかない。労働者を取り巻く環境の変化を経営課題として捉え、その解決策としての『働き方改革』をどうやって実現していくか。そのことを企業や経営者が真剣に考えなければならない」と指摘する。

 働き方改革に取り組んでいること自体に満足せず、その改革が本当に会社の成長につながっているか、再考が必要だ。

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■再考 働き方改革
PART 1  働き方改革に抱く「疑念」 先進企業が打つ次の一手
PART 2      労働時間削減がもたらした「副作用」との向き合い方
PART 3      高プロ化するホワイトカラー企業頼みの健康管理はもう限界
PART 4      出戻り社員、リファラル採用……「縁」を積極的に活用する人事戦略

  
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◆Wedge2019年10月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 

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