新たなアクセス拠点の確保を急げ
「防衛大綱」は自衛隊を全国に均等に配備する従来の「基盤的防衛力」ではなく、各部隊が高い機動力や警戒監視能力を備えて迅速に展開する「動的防衛力」という概念を導入した。現在、南西諸島防衛の強化のため、日本最西端の与那国島への沿岸監視部隊の配備、潜水艦部隊の増強、那覇基地の戦闘機部隊の増強、宮古島の固定式3次元レーダーの更新等により、周辺海空域における警戒監視や即応能力の向上が計画されている。しかし、これらは基本的に「基盤的防衛力」の延長に過ぎない。
「動的防衛力」の観点から、南西諸島防衛は陸海空による統合任務として実践されなくてはならない。東日本大震災の救援活動は自衛隊の統合作戦の貴重な先例となったが、同時に自衛隊の揚陸輸送能力が不十分であることも証明した。南西諸島が広大な海洋戦域であることを鑑みれば、海上自衛隊の将官の下に陸海空からなる統合任務部隊を創設して揚陸輸送能力を強化し、統合訓練・演習を常態化するべきである。その上で、日米共同対処能力を高める必要がある。
また、南西諸島の地勢を考えると、既存の施設以外にも自衛隊が平時・有事に使用できる空港・港湾施設を整備しておく必要がある。先島諸島では下地空港や新石垣空港、拡張中の石垣港などが防衛や災害救援の際に重要な拠点となり得る。薩南諸島では、馬毛島や奄美大島、徳之島等が候補となろう。地元では誘致による経済効果を期待する声もあるが、活動家に扇動された反対運動も予想されるため、慎重な検討が必要である。しかし、新たなアクセス拠点の確保なしに南西諸島防衛は成り立たない。
尖閣ブランドの確立と実効支配の強化を
尖閣に関しては、近海での漁業を中心とする経済活動を活性化させるとともに、不法操業や不法上陸を取り締まる法執行の強化を通じた実効支配の確立が求められている。
尖閣諸島は石垣市の一部であるが、燃料費や高い波、そして中国船とのトラブルを懸念して、石垣島から漁に出ることはまれとなっている。石垣島の八重山漁協は、尖閣近海で獲れるカツオやマグロに「尖閣」ブランドをつけることを計画しているが、すでに「尖閣」が個人によって商標登録されているため異議申し立ての準備をしている。尖閣周辺での経済活動を強化するためにも、八重山漁協が「尖閣」ブランドを管理することが望ましい。加えて、尖閣に漁船の避難港やヘリポートを設置し、漁船の安全を向上させる必要もある。
最後に、海上保安庁も南西諸島防衛の重要な要素と考えるべきである。尖閣沖漁船衝突事件以降、石垣島の第11管区海上保安本部にはヘリコプター搭載型の巡視船が1隻追加配備され、離島への不法侵入があった場合は海上保安官に逮捕権を与えることも検討されている。しかし、中国公船の尖閣近海での活発な活動や大量の漁船が違法操業を行う可能性を考慮すれば、巡視船のさらなる増強は不可欠である。とりわけ、世界最大の巡視船である「しきしま」型を配備すれば、実効支配を強化する上で効果的であろう。
*文中写真はすべて筆者による提供です。
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