中国の未来が経済の構造改革にかかっていることはすでに触れたが、温総理はこの経済改革の成否はすべて政治改革の進展にかかっているとして、「党員・幹部は政治改革が緊急に必要であることを認識すべき」だと語ったのである。
「文革の歴史的悲劇が繰り返される」
温総理の言う「政治改革」が何を指しているのかといえば、それは「社会的、法律的不公平感が社会に不満を高めている」ということなのだ。より具体的に言えば、「社会的不公平」が所得格差を、「法律的不公平」が権力の横暴を指しているのだが、とくに社会的格差を無くすために社会の再分配に努めなければならないということだ。
そして大胆にも、「政治改革を進め、広く所得を分配できなければわれわれがこれまで成し遂げたすべてを失いかねない」との危機感を示し、さらに「文化大革命のような歴史的悲劇が繰り返される可能性だってある」と警告したのである。
従来、中国共産党は問題を認識していても決して表に出さず、「適切に行われている」と語るのが常で、これほど率直に危機感を表にすることはなかった。
中国はやがて「金持ちに厳しい国」になる
中国の最高指導部メンバーで政治改革に言及するのは温総理だけではない。最近では2月6日、〈低所得者向け住宅の公平な分配に関する座談会〉に出席した李克強副総理も同じく、配分の透明性を計ることが重要とした上で、「そのためにもメディアや社会からの監視を受ける必要がある」と述べている。つまり、政治改革は現指導部が共有する意志と考えて間違いない。
つまり、少なくとも上層部は偏った金持ちを生み続ける現状を肯定はしていないのだ。
私は昨年末に上梓した『中国マネーの正体』(PHPビジネス新書)という本のなかで、中国経済の鈍化とそれにともない金持ちのマネーが海外へと向かう時代を予告した。
今回、GDPの目標値を下げ経済の構造改革に乗り出した中国は、同時に所得分配という政治改革にも乗り出すと宣言したのである。つまり、やはり金持ちに厳しい国を目指して動き出したのである。
◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜
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