黙っていても外国から資金が流れ込んできた幸せな思春期との決別と同時に、老いたなりの発展を模索しなければならないという、日本もかつて経験してきた変化を意味する。
このとき問題となるのが中国でいま流行語となっている「日本は金持ちになって老人になったが、中国は金持ちになる前に老いてしまった」という現状であり、政権の焦りなのだ。温総理の活動報告には、このことに対する並々ならぬ危機感が溢れていたのも特徴だ。
PM2.5問題 暴露された大気汚染
同じ活動報告で触れていたことで特徴的であったのは、低価格住宅700万棟の建設計画など人々の関心が高い個別の問題だ。その典型が昨年から話題になっていたPM2.5(微小粒子状物質)の問題だ。もともと中国が「大霧」としか言ってこなかった現象をアメリカ大使館の独自の観測で大気汚染だと暴露された問題だが、この全人代で大気汚染と健康被害をきちんと認めた上で改善指標を設けたのである。こうしたメディアで話題になった問題に一つ一つ敏感に反応するのは西側的な政治手法であり、従来の中国にはあまり馴染まなかった。民生重視とともに、これも重要な変化の一つだろう。
楊潔篪外相発言の真意とは?
話は少しそれたが、経済の構造転換の話に戻そう。
中国がこれから国運を賭けて力を結集する最大のテーマこそが経済の構造転換であることはすでに述べたが、そのことは外交部長として内外記者との会見に応じた楊潔篪外相の言葉にもはっきりと表れている。
楊外相は中国の今後の外交方針を尋ねられると、「中国の経済の構造転換をサポートするための外交を行う」と答えているのだ。「外交面からのサポート」が何を意味するのかは明らかではないが、少なくとも経済とは関係が薄そうな外相会見でもこんな言葉が語られるところに、経済の構造転換の成否が中国の未来を決するという危機感を政権の各部門がきちんと共有していることをうかがわせるのである。
3時間にも及んだ温家宝のロングラン会見
従来にはなかなか見られなかったこうした中国政府の直截な表現が、最高潮に達したのが閉幕後に行われた温総理の内外記者との会見である。
3時間に及んだこの会見は、温総理自ら「すべての質問に応じたことを誇りに思う」と評したように、経済成長の鈍化問題、不動産価格の下落、人民元レート、地方政府の負債や国民の所得格差、少数民族問題、台湾問題から香港の次期行政長官など内外の難問のすべてに正面から答え、その一つ一つが驚くほど率直だったのである。
そのなかでもとくに驚かされたのが「政治改革」の必要性に言及し、これを政権の喫緊の課題と位置付けたことだ。