2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2012年3月26日

 暗転したのは7月末。いわき市三戸の肉用牛農家が、放射性セシウムを含む宮城県産稲わらを肉牛に給与していたことが判明。そのことが大きく報道されたことで、風評が広まり、その余波で加茂農産のナメコの市場価格は下落した。その後、持ち直すも、9月にはいわき市の「天然の野生きのこ」に出荷制限がかかり、再び急落。そして11月に決定的な出来事が起こってしまう。

スーパーにナメコを返品する消費者

いまだ風評被害に悩まされる、ナメコ農家の加茂直雅氏

 勿来地区で「露地栽培のナメコ」から暫定規制値を上回る放射性物質が検出され、出荷制限がかかったのだ。露地栽培のナメコ農家は数軒で、そのすべてが地区の直売所に出す程度の規模だ。一方、加茂農産は、外気に触れない施設内でナメコを生産し、市場経由で地元のスーパーや東京などに出荷している。市場関係者の中では「勿来地区のナメコといえば、加茂農産」というイメージが強い。

 「東京の市場担当者から『加茂さんのナメコから出ちゃったね』と言われましたし、うちのナメコをスーパーで買ったお客さんが返品しに来たという話も聞きました。11月から現在まで、出荷量は通常の2分の1ですし、取引価格も秋から冬場にかけてが一番単価の取れる時期でも、単価が10円から20円にしかならない状況なんです」

 助川氏のトマトに比べて、かなり厳しい状況だが、これは、やはりいわき市の露地栽培のナメコやきのこに出荷制限がかかり、今も続くことが響いている。加茂農産のナメコは施設栽培であり、定期的な独自検査でも放射性物質は一切検出されていない。それでも十把一絡げに扱われてしまっているのだ。

消費者のニーズも「格差」を生む一因に

 さらに、もう一つ大きな要因があると、加茂氏。

 「今は施設で通年栽培していますが、一昔前までナメコは、秋にしか食べられない食べ物でした。つまり消費者にとっては、無くてもそれほど困らない食べ物なんです」

脂肪を燃焼させる成分に注目が集まった京都大学の研究も、トマトの消費増加の後押しとなったという

 その点、トマトは「トマトが赤くなると、医者が青くなる」という諺があるように、日本人の食生活には欠かせない食べ物だ。トマトとナメコの市場価格の“差”は、こうした消費者のニーズという側面も手伝って、生じていることは決して否定できない。

 こうした風評被害について、東京電力は「福島、茨城、栃木、群馬、千葉、埼玉の各県の農家」に対し、賠償金の支払いを約束した。とはいえ、莫大な賠償金を抱える東電ゆえに、助川氏や加茂氏に支払われたのか半信半疑だったが、2人は「昨年分(11月末まで)の賠償金は現時点でほぼ支払われている」と明かした。


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