福島第一原子力発電所の事故によって発生した風評被害で、大きなダメージを受けた地域の一つが福島県いわき市だ。同市勿来(なこそ)地区の施設トマト農家・助川農園の助川成光氏(36歳)と施設ナメコ農家・加茂農産の加茂直雅氏(33歳)は、東日本大震災から1か月後の2011年4月に取材に応じ、同年3月下旬の市場価格が「トマト1ケース(4キロ24個)の相場2000~2200円が400円」「ナメコ単価の相場40~50円が5~10円」と大暴落したことを明かした。
いわき市は、福島県の東南端、太平洋に沿った南北60キロに位置する。勿来地区はいわき市の南端にあり、あと数キロで茨城県というエリアだ。
あれから1年が経過し、二人を取り巻く状況は、大きく異なっていた。同じエリア内で、風評被害によるダメージの格差が歴然と表れていたのだ。
復活の手応えを感じつつあるトマト農家
まず「戻りつつある手ごたえは感じています」と話してくれたのは、施設トマト農家・助川農園の助川氏だった。
「決して満足はしていません。他県に比べると、市場価格が数百円程度安いのは事実ですから。でも去年の7月以降、戻りつつあることは実感しています」
その要因について、助川氏は福島県でトマトは一度も出荷制限の対象にならなかったことが大きかったと話す。もちろん、助川農園のトマトは定期的に行っている独自検査で、一度も放射性物質が検出されていない。
最近では、テレビや新聞などで市場価格暴落のニュースが取り上げられる機会も減ってきている。それもあって私が「風評被害は終えんしつつあるのでしょうかね」と聞くと、施設ナメコ農家・加茂農園の加茂氏が「いえ。まったく終わっていません」と首を振った。
ナメコは施設栽培でも風評被害
ナメコを取り巻く状況は震災後の11年3月下旬頃よりも、悪化していた。
「震災後1週間でガタッと落ち込んで、その後、徐々に持ち直して7月には、通常の夏場価格に戻りつつありました。定期的に独自検査も行っており、まったく問題のない状況が続いていたので、もう大丈夫だと思いました。でも……」