2022年7月2日(土)

WEDGE REPORT

2019年10月31日

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コカ栽培の農民から大統領へ

 総選挙により、メサ氏に代わって大統領に就任したのが今のエヴォ・モラレス氏だ。モラレス氏はコカ栽培の農民。農民運動のリーダーを経、下院議員を務めた後の大統領当選だ。ここに至り、とうとう先住民は自らの代表を国のトップに据えることになった。初の先住民出身の大統領だ。

 モラレス大統領は、先住民の権利拡大、貧富の格差是正等を精力的に推進、2009年、それらを明文化した新憲法が国民投票の支持を得て制定された。その後実施された総選挙で、モラレス大統領は64.22%の支持を得て再選される。

 モラレス大統領が国民の高い支持を維持した裏には好調な経済があった。ボリビア経済はその8割を農業と天然資源に依存する一次産品依存経済だ。モラレス大統領が就任5カ月目にしてガス田の国有化を発表した時、運よく一次産品価格が高騰した。高止まりの天然資源価格から上がる豊かな収入を背景に、経済は良好に推移、実にモラレス大統領の間、GDPは4倍に膨れ上がった。ラ米諸国全体の平均成長率が1%に満たない時(2015年~2019年)ですら、ボリビアは4%を超える高成長ぶりだ。

 天然資源による収入は国民に平等に配布した結果、1日1.9ドル以下で生活するいわゆる貧困層が、モラレス氏が大統領就任以来半減、貧困率6%にまで低下していく。今や、一人当たりGDPは3倍増の3000ドルだ。

 これでモラレス大統領の支持が揺らぐはずがない。2013年、最高裁判所は、三選出馬を規定した法律を合憲と判断。2014年、改めて大統領選挙に立候補したモラレス氏は61.36%を獲得し悠々と三選を果たしていく。

 ところが、いい時はえてして終わりを迎えるものだ。高支持率維持の最大のカギだった天然ガス国際価格が2014年後半あたりから急落していく。全ては豊かな国庫収入ゆえの安定政権だ。国民は既に、国家による恩恵を当然のことと考えている。既得権益と思っていたものが急に失われていく。これで国民の不満が高じないわけがない。

 そもそもモラレス氏が大統領に就任して2014年で8年だ。三選の後、さらに5年の任期を併せれば13年になる。そろそろ国民に「モラレス疲れ」が出てきた。

 そういう時、2016年、モラレス氏の四選を可能とする憲法改正の是非を問う国民投票が行われた。結果は、否決。モラレス大統領もとうとうこれで引退か、と思われた。ところが、大統領率いる「社会主義運動(MAS)」党が、四選禁止の規定は米州人権条約違反でないか、として最高裁判所に提訴した。最高裁判所はこの訴えを入れ、四選禁止規定無効の判決を下した。これを受け、今回、モラレス氏が改めて大統領選に出馬したのだが、怒りが収まらないのは国民だ。 

 民意は四選不可と判断したのだ。裁判所が何を言ったか知らないが、民意を踏みにじって四選に挑むとは何事か。国民の中に、モラレス氏は長く大統領の職にある間、権力への執着が出てきた、今や、民主主義を踏みにじろうとしている、との猛烈な批判が巻き起こる。

 今回、モラレスが、これまでとは打って変わって4割台の支持率に泣いたのはこういう理由がある。

 最高選挙裁判所が結果を確定した。外国が何を言おうがモラレス氏の四選は決まった。モラレス氏はあと5年、大統領の職にある。しかし、過去二回も大統領を辞任に追い込んだボリビア国民が黙っているかどうか。あるいは黙っているとして、国内に充満する不満をモラレス大統領はうまく表面化させることなく政権を運営していけるかどうか。

 ボリビア内政はこれまでとは打って変わって緊張含みだ。無論、天然ガス価格が再び持ち直していけば、政権の安定も視野に入ってこようというものだが。

  
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