2024年11月5日(火)

世界の記述

2019年11月1日

香港政府への圧力を期待して米国旗がはためく
(筆者撮影、以下同)

 香港デモの発端となった「逃亡犯条例」の改定案について、10月23日、香港政府保安局の李家超(ジョン・リー)局長が立法会で正式撤回を表明した。一方、アメリカの下院は10月15日に「香港人権法案」を可決した。そう、逃亡犯条例に関するデモは人権を守る戦いでもある。香港のNGOである「香港人権観察」の葉寛柔(クラウディア・イップ)スポークスマンに話を聞いた。

中国に連行されるとセーフガードがない

 事の発端となった逃亡犯条例について、人権の観点からみてどこに問題があるのかを聞くと、「逮捕されて中国に連行されると、拷問などを行われる懸念がまずあります。また、弁護士へのアクセスができない、メディカル・ケアへのアクセスも難しいなど、逮捕者を保護する手段がないことが問題です。さらに、法案の進め方も問題です。今回は全く民主的なプロセスがありませんでした。通常は、商工会などの関係団体から意見を聞いたり、諮問期間を設けて市民から意見を聴取したりするのですが、今回はこういった意見をほとんど聞いていません」と指摘する。

「香港人権観察」の葉寛柔スポークスマン

 条例案は撤回となるが、市民の怒りは収まらず現在もデモが続く。デモを鎮静化出来ない香港政府は10月5日から「緊急状況規則条例」(緊急法)を運用し、マスクの着用を制限する「禁蒙面法」を制定した。緊急法はイギリス植民地時代の1922年に制定されたもので、行政長官が公共の安全に危険が及ぶ緊急事態と判断した場合に立法会の同意を得ずに適用されるもの。

 今回はマスクだが、インターネットの遮断や人の出入りなどの制限をかけることが可能で、最後に緊急法が使われたのは67年の反英暴動である「六七暴動」だ。この超法規的な措置はまさに植民地時代の負の遺産だが、香港政府は「有効活用」した。

 この点について聞くと、「緊急法は、基本的人権の全てが制限される恐れがあるものです。行政長官により権限を与え、悪い法律を悪いやり方で制定されかねません。マスクの制限も人々をコントロールするためのものであって、問題解決のためではない」と一刀両断する。

 彼女は官僚とも接触する機会があるそうだが、そもそも逃亡犯条例にしろ、緊急法にしろ、香港政府のどのレベルから出てきたアイデアなのだろうか。その点については、「はっきりとはわかりませんが、少なくともボトムアップで作られた法律ではなく、政府高官か中国本土からの考えだと推測しています。実は2018年に超大型台風が来て大きなダメージを受けた時、緊急法を使おうとしましたが、誰も気にも留めずに話は流れました。ところが1年経つとこの状況です」と語る。


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