2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年10月18日

 10月1日、北京では、中華人民共和国建国記念70周年を祝う軍事パレードが行われた。パレードの様子を見ると、東風41、東風17、新爆撃機、超音速兵器などが登場し、中国の軍事大国化を見せつけるものであった。中でも、巨大なDF41ミサイル は、10弾頭を搭載可能なICBM(大陸間弾道弾ミサイル)で、米国本土をも攻撃する能力を持つもので、注目された。

Katsapura/jgroup/iStock / Getty Images Plus

 習近平主席の国力を鼓舞する言動にも圧倒された。人民服姿の習近平は、「如何なる勢力も偉大な祖国の地位を揺るがすことは出来ない。如何なる勢力も中国人と中国の発展を阻害することは出来ない」と述べた。

 中国がやっているような軍事力拡大は時代錯誤にしか思えない。巨大な人口を擁する中国が今のような価値観を持って世界に影響力を持つような世界にしてはならない。その前に中国をエンゲージし、中国を変えていくことが重要である。今や中国を封じ込めることは出来ない。批判的なエンゲージメントしかない。国慶節80周年あるいは2049年の中国はもっと違った国になっていることを期待したいものだ。 

 鄧小平が改革開放を打ち出して以来の中国の発展は誠に驚異的なものであった。しかしその後、胡錦濤政権や習近平政権は、対内政策においても対外政策においても政策を強硬化している。国内での融和、国際協調の重視がこれからも中国に多大の利益をもたらすと思われるが、現在の習近平政権は鄧小平の路線を否定してきている。 

 これは世界に大きな問題を提起するものと言わざるを得ない。東シナ海、南シナ海でも力を誇示し、鄧小平の抑制的政策はどこに行ったのかと思う。国内でも国営企業重視、党の指導重視になって来ている。軍事力の誇示のパレードなど、鄧小平はどう思っただろうか。 

 中国共産党は自らの統治の正統性に自信を持っておらず、用心しないと転覆されかねないとの恐怖を持っているのではないか。国民に対する監視網をAIも利用して張り巡らしているが、これは国民を敵視している証左である。習近平は天安門の楼上から国民の団結を呼びかけたが。監視の強化と真の団結は両立しない。自信のある政権が国民への情報管制に巨費を投じてやることはない。権威主義政権は見かけよりも脆弱であるし、そう意識もしている。1990年代、ソ連の崩壊を目撃した経験からもそう言える。中国の行動に対しては是々非々で、短期的な不利益よりも長期的利益を考えて、対応していくのが正解であろう。 

 10月1日、北京で祝賀パレードが行われた日、中国の一部であり、中国大陸の最南端に位置する自由都市、香港では、6月以来4カ月続く政府への抗議デモが大規模に行われた。香港基本法により、2047年まで香港に約束されていた「一国二制度」と呼ばれる高度な自治が、中国共産党により蝕まれて行くのに抵抗して市民が立ち上がったものである。

 このデモに参加した香港の高校生に対して、10月1日、警察が実弾を発砲した。負傷した学生が一時重体となったことは極めて重大である。南アフリカの反アパルトヘイト運動がそうだったように、一発の発砲が大きな転機になる可能性がある。平和的に抗議活動が行われることが何より重要である。警察側は「合法だ」と発砲を正当化しているが、報道などを見ると、そのような状況だったようには思えない。 

 習近平は、10月1日の演説で、台湾に関しては「両岸(中台)関係の平和的な発展を推進する」、「祖国の完全統一を実現するための奮闘を続ける」と指摘した。しかし10月1日、台湾の大陸委員会は香港の「一国二制度」は「両岸(中台)関係に適用できず、絶対に受け入れない」との声明を発表した。 

 なお、10月1日付ウォールストリート・ジャーナル紙掲載のウォルフォヴィッツ元世銀総裁の寄稿文が目を引いた。同氏は、世銀の対中融資は中国の抑圧政策を補助する結果になっている、民主主義国はウイグルなど少数民族弾圧を中国が止めるまで対中融資をストップさせるべきだと主張している。

  
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