2024年12月14日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年10月10日

 香港におけるデモは収束する気配がない。「犯罪人引渡条例」の改正をきっかけに始まった香港での大規模デモであるが、行政長官が同条例案の撤回を発表しても、同長官の辞任や警察の弾圧調査に関する第三者員会の設置等、香港市民からは5つの要求が提出されている。

leremy/Avector/krkt/iStock / Getty Images Plus

 そもそもは、1997年の香港の中国への返還以降、50年間は香港の高度な自治を維持するために「一国二制度」が敷かれることが約束されていたが、北京の中国共産党政府が、それを破るようなことを次々とすることへの香港人の反発からデモは始まり、大規模化した。5年前の「雨傘運動」は、香港の議会において民主主義選挙が行われなくなってしまったこと、言論弾圧への抵抗から起きたものだった。

 今回の香港の大規模デモの民主化要求に対して、最大の民主主義国の旗を振るアメリカの議会は黙っていなかった。

 9月25日、アメリカの上下両院の外交委員会は、それぞれ「香港人権・民主主義法案」を全会一致で可決した。同法案は、超党派で提出され、10月には本会議で可決される見通しである。同法案の内容は、概ね以下の通りである。

・法案は、香港の政治状況が、米国法が香港に与えている優遇措置を正当化できる状況かどうかを各省庁が判断することを求めるものである。

・香港は中国の一部であるが、中国とは分離された法的、経済的制度を有する。

・国務省は、毎年、議会に対し、香港がその優遇措置を正当化し得る十分な自治を有しているかを報告する。報告書は、香港基本法で守られている香港市民の自由や法の支配が中国によって侵されていないかを評価しなければならない。

・商務省は、毎年、議会に対し、中国が米国の輸出規制や制裁を逃れるために香港を使用しようとしていないかを報告しなければならない。

・国務省は、資格がある香港市民に対しては、たとえその者が人権又は法の支配を支持するための非暴力的抗議デモに参加して逮捕された場合でも、米国で就労または就学するヴィザを発給しなければならない。

・大統領は、議会に対して、香港で国際的に認められた人権を行使した人々を拘束したり弾圧したりした責任者のリストを提出しなければならない。法案は、それらの責任者の米国入国を禁止し、制裁を科す。

参考:‛Summary: S.1838 — 116th Congress (2019-2020)’

 以上のような法案は、本会議で可決されれば、最終的にはトランプ大統領の署名をもって成立する。上下両院外交委員会で、超党派で全会一致で可決していることから、トランプ大統領が署名を拒否することはあまり考えられない。

 上院においては、同法案は、6月13日には提出され審議されてきた。両院では、香港の人権活動家も含め公聴会を開催してきた。

 これに対して、中国政府は反発を強めている。香港が中国の一部であることを全面に出し、米国の議会のやり方は内政干渉だとする。

 しかし、国際社会は、重要な人権に対しては、内政不干渉の原則の例外であるとしており、一国二制度の50年間の保証は国際約束上の中国の義務である。

 「一国二制度」、香港における高度な自治、この言葉は、残念ながら、中国ではもはや死語になっているようだ。

  
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