Wedge REPORT

2019年11月13日

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予想外の人気で生まれた社会現象、そして著者たちの受難

 韓国で10万部以上売れ、今年最高の話題作となると、この本を「不都合に感じる」人たちが動き出した。もともと賛否両論のある本だが、彼らは単に反対意見を表明するだけではなく、著者たちに脅迫、あるいは直接的な暴力でもって対峙したのだ。

代表著者の李栄薫 前ソウル大学教授 

 今年の7月には著者の中の1人、李宇衍(イ・ウヨン)氏が所属する落星台経済研究所に男たちが押しかけ、ドアを蹴りながら李氏に対し「親日派」「売国奴」と責めたて、「顔を覚えたから、ここに通えないようにしてやる」と脅迫するとともに、顔に唾を吐きかけた事件が発生。

 続く8月には40代の男性が同研究所のドアに動物の排泄物を撒き散らした。この男は検挙されたが、9月には同研究所の前に左翼性向の市民団体が集まり、旭日旗と共に『反日種族主義』を燃やすという「火刑式」を行うなど嫌がらせは続いている。

 そしてバッシングはついに、高額訴訟へと発展した。李宇衍氏を相手に慰安婦少女像の作家として有名な夫婦によって計6000万ウォンの損害賠償を求める訴えが起こされたのだ。金氏夫婦が制作した「強制徴用労働者像」を李氏が「日本人労働者の写真をモチーフにした作品」と批判したことが事実ではないというのが訴えの理由だ。

 この本の著者たちは、本を刊行するにあたって、新聞に全面広告を出した。韓国の歴史学界や慰安婦支援団体に対し「隠れずに堂々と論戦に応じよ」と挑戦状ともいえるような文面で、公開討論を提議した。だが公開討論に応じる団体や研究者は1人も出てこなかった。結局、彼らは朴裕河教授『帝国に慰安婦』騒動の時と同様に怒りをぶちまけ、悪態をつき、そして高額の訴訟を起こすことで持って応えたのである。

 『帝国の慰安婦』も『反日種族主義』も、現時点において、韓国社会の常識に反する「異説」であり、新しい解釈である。だが、こういった「異説」が韓国社会の考え方の幅を広げてくれるなら、長期的に見れば、これらの主張は歴史認識の多様性を認めるための「薬」であるはずだ。これを思うと、韓国における著者たちの受難がいっそう残念に思えてならない。

 韓国で親日派、売国奴の本だと罵倒された『帝国の慰安婦』は日本では概ね好評を受けたが、一部のリベラル性向の研究者たちからは韓国で受けた以上の批判を受けた。『反日種族主義』の日本での評価もまた、賛否両論の評価を受けることになるだろう。だが実のところ、そうして「議論」が巻き起こることこそが著者たちの望むところでもある。怒りに任せた感情のぶつけ合いではなく、両国で冷静な議論が起きることを期待しているのだ。

 韓国の反対派たちが、無視、嫌がらせ、訴訟という形で応えたこの本に対し、日本の読者たちがどんなふうに応えるのか……楽しみである。

  
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