2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年11月27日

 イランは核合意(JCPOA)に違反する動きを加速させている。11月4日には、イラン原子力庁のサレヒ長官は、新しい高度な遠心分離機を導入したことを発表した。ロウハニ大統領は、11月5日の演説で、ファルドウの地下核施設にある1044基の遠心分離機にガスを注入し始めると述べた。サレヒ長官によればフォルドウでは濃縮度5%のウランを製造するとしているが、JCPOAはイランによるウランの濃縮を3.67%以下に制限している。従って、これはJCPOA違反に当たる。ただし、5%というのは兵器に使える濃縮度からはまだ程遠い。ロウハニ大統領は演説で、「彼らが約束を守るとき、我々はガスを遮断する。このステップは逆転可能である」と述べた。JCPOA違反を段階的にエスカレートさせることで欧米を分断する戦略であろう。

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 イランのこうした動きに対して、JCPOAに批判的なウォール・ストリート・ジャーナル紙は11月6日付けの社説‘Iran’s Nuclear Escalation’で、欧州諸国が米国の対イラン最大限の圧力キャンペーンに参加すべし、と論じている。同社説は、「ベルリン、パリ、ロンドン、ワシントンが一緒になって、イランの核エスカレーションへの対応として、いわゆるスナップバック制裁を課せば、テヘランの注意を喚起するだろう」「欧米がイランに対する共通の戦線を再構築し、制裁が緩和されるためには、交渉のテーブルに戻らなければならないことを示すことである」と主張する。

 しかし、社説が期待するように、イラン側が音を上げて再交渉に応じる見通しは皆無であろう。なぜならば、米国がやっていることがいかにも無理筋だからである。JCPOAは、2015年の安保理決議2231によって承認されている。確かにイランのウラン濃縮はJCPOAに違反しているが、先に安保理決議に違反し、条約違反をしたのは米国であって、イランではない。米国の振る舞いは、まるで「ならず者国家」であるかのようだ。

 従って、欧州諸国は、JCPOAから離脱するというような国際法違反行為を行うことは考えられない。サウジの施設が攻撃された後、英仏独が再交渉を呼びかけたのは事実であるが、欧州としては、その再交渉が妥結するまでの間、JCPOAは有効という立場をとらざるを得ないだろう。上記社説が言うように米国に同調して最大限の圧力をイランに加える努力に協力することは、少しハチャメチャなボリス・ジョンソン英首相くらいしかできないだろう。その上、JCPOAの当事国として、拒否権を持つ中ロがいる。安保理決議2231を無効にする新しい安保理決議が通る可能性は全くない。

 国連総会の期間中、トランプ・ロウハニ会談に向けてマクロン仏大統領が努力をしたが、実現しなかった。これは、イランが「制裁解除が先」という姿勢をとったからである。

 今後、イラン核問題がどう進むのか、よく分からないが、イラン側としては、トランプが再選されるかどうかを見極めるまで、再交渉に応じることはないと思われる。イラン側は米大使館人質事件でカーター大統領の2期目を排除したと考えており、イランとしてはトランプ再選阻止も可能なのではないかと考えている節がある。

  
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