直前期に大事なのは、自信を持たせてあげることです。苦手科目を何度もやらせ、「やっぱりわからない」「何度やっても自信が持てない」と不安な気持ちにさせるのではなく、子どもの得意な科目をどんどんやらせ、「これはもう完璧だね!」「これが解けるなんてたいしたもんだね」と前向きな声かけをし、気持ちよく勉強をさせることがポイントです。
中学受験で満点を取る子はほとんどいません。みんな何かしらの苦手を残したまま入試に挑みます。また、小学生の子どもが挑む中学受験は、当日の心身のコンディションの良し悪しが大きな割合を占めます。合格者の下1/3は、たまたまその日のコンディションがよかっただけ。最上位での合格を目指す必要はありません。パーフェクトを目指して、勉強量を増やし過ぎると、日々の学習がアタフタして確実にミスが増えます。一日が終わったときに、「その日の予定していた学習を完璧にやり切った」という爽快感が持てる量に限定してあげてください。
受験校は「安全」と「チャレンジ」の2パターン用意する
1月に入ると、いよいよ埼玉と千葉の学校の入試が始まります。東京、神奈川の受験生は、2月1~3日の本番を前に、“肩馴らし受験”として1~2校受験するのが一般的です。以前は、「行かない学校の試験など受ける必要がない!」と、“肩馴らし受験”に反対のお父さんもいましたが、最近は塾の説明会に参加するお父さんも増え、肩馴らしの必要性を理解するようになったと感じています。
首都圏の多くの受験生にとっての本番は2月1日です。近頃はできるだけ早く合格を手に入れたいと、1日は午前に本命校、午後に他の学校を受験する人が増えています。本命に合格できれば、その時点で中学受験は終了です。しかし、そういう子は、入試倍率を考えると受験生全体の3割に過ぎません。現実としては、多くの子が第二志望校、第三志望校へと進学します。
そこで重要になるのが、「もしかすると通うかもしれない併願校」の選択です。受験校は「安全」と「チャレンジ」の2パターン用意しておくことをおすすめします。
一つは2月1日に第一志望校、または現時点で進学する可能性が高いと思われる第二志望校に合格している場合です。1日午前に受けた第一志望校に合格していれば、そこでめでたく受験終了となりますが、1日午前の本命は不合格だったけれど、午後の第二志望、または第三志望校で合格を手に入れた場合は、すでに “安心”を手に入れているのですから、2日目、3日目は第一志望校の2回目、3回目入試に再チャレンジできるように事前に出願しておくのです。
一方、1日午前、午後の2つの入試で不合格だった場合を考えて、その後の出願校は慎重に設定しておく必要があります。思い切って出願校の偏差値レベルを大きく下げて、ここで合格を勝ち取っておいて、再度3回目の試験に挑戦することもできます。受験校の偏差値は15くらい幅を持つといいでしょう。例えば本命校の偏差値が55なら、チャレンジ校は偏差値60、安全校は偏差値45まで検討しておくのです。
しかし、なかには「偏差値45の私立に入れるなんて意味がない」と言うお父さんがいます。そういうお父さんは、地方の名門公立高校出身の方が多いのが特徴(過去記事参照)。自分の高校受験のイメージで「偏差値40台の学校なんて、勉強が苦手な子が集まる学校じゃないか」と思ってしまい、お父さんのプライドが許しません。しかし、中学受験と高校受験とでは、そもそもの母集団が違います。中学受験では偏差値40台の学校は、高校受験ではほとんど偏差値60台になります。
第一、学校は偏差値だけで選ぶものではありません。お子さんが10代の大事な6年間をどの環境で過ごすのがベストかに目を向けるべきです。「うちは○○中がダメだったら、公立中に通う」と親子で話し合い、子どもも納得しているのであればいいのですが、お父さんのプライドだけで受験校を決めてしまうことのないようにしてください。ここをしっかり話し合わず、強気な受験をしてしまうと、不本意な結果になったときに傷つくのは子どもです。「頑張っても報われない」という思いが残ると、中学生になってから勉強に対する意欲を高めにくくなってしまいます。
受験当日、お父さんがやるべきは
「母子の不安を取り除いてあげる」こと
「安全」「チャレンジ」と受験校をしっかり考え、万全の準備をした。でも、やっぱり入試当日は、どんな子も大なり小なりの不安や緊張はあります。そんなときこそ、お父さんの出番です。
「お父さんはお前が本番に強いことを知っているからなー。だから、大丈夫!」と不安を取り除くよう声をかけてあげましょう。男の子の場合は、それだけで効果があります。根拠なんてなくていいのです。とにかく「大丈夫!」と言ってあげましょう。
ところが、女の子の場合は、こうした乱暴な言い方は、かえって苛立たせることがあります。特にこれまであまり受験勉強に携わって来なかったお父さんが、当日だけ励ましの言葉をかけても響きません。また、心配でしょうがないお母さんからは「何を無責任な!」と反感を買うこともあります。娘には「いつも通り、落ち着いて頑張っておいで」ぐらいの声かけでいいでしょう。
それよりも、不安な気持ちでいるお母さんに労いの言葉をかけてあげることが大切です。「今まで、本当に頑張ってくれてありがとう。最後はあの子の力を信じようね」と言ってあげるのです。そうやってお母さんの不安を取り除き、お母さんを笑顔に変えてあげると、子どもは安心します。この安心感が中学受験には不可欠なのです。
(構成・石渡真由美)
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