2024年4月20日(土)

【中学受験】成功を導く父親の役割

2019年9月30日

(CreativaImages / iStock / Getty Images Plus)

夏休み後に急増する「方程式跡」

 中学受験の指導に携わり、かれこれ10年強になりますが、ここ数年で大きく変わったと感じることがあります。それは、子どもの中学受験に積極的に関わるお父さんが増えたことです。

 しかし、生活のサポートとなると、やはり日ごろからお子さんのそばにいるお母さんの方がスムーズにいきます。すると、お父さんは「勉強を教えることが自分の役目」と思い込み、「よし、算数ならオレに任せろ!」と張り切ります。ところが、そんなお父さんに限って、方程式を使って教えてしまうのです。

 ケンジくんの算数の成績がガクッと下がったのは、夏休み明けの模試でした。ちょっとした計算ミスというよりは、あきらかにトンチンカンな答えを書いているので、「ケンジくん、これってどうやって解いたの?」と聞いてみると、「お父さんが教えてくれたやり方でやってみたんだけど・・・・・・」と口をもぞもぞさせながら言います。問題用紙を見ると、その端には「X」や「Y」といった文字式の跡がありました。

小学生の子どもが方程式では理解できないワケ

 算数を方程式で教えてしまう。以前からそういうお父さんはいました。しかし、ここ最近はその数が増えているように感じます。「イクメン」や「働き方改革」など、お父さんを取り巻く環境が変わったことで、中学受験で“お父さんの存在”をアピールしなければと思い始めたお父さんが増えているからだと思います。そういうお父さんは、自分が子どもの頃に得意だった算数を教えたがる傾向があります。子どもが塾で習ってきた線分図や面積図で解くというやり方がまどろっこしく感じてしまうのでしょう。

 「いいか、入試はスピードが大事だ。お父さんがもっと簡単にもっと早く答えを出せるやり方を教えてあげよう!」

 そうやって方程式を教えてしまう・・・・・・。ところが、この方程式。大人のお父さんにとっては簡単でも、小学生の子どもにはとても分かりにくいのです。

 算数・数学という科目は正しく考えている限りどのような方法で解いても原則自由ですから、算数だから方程式を使ってはいけない、ということはありません。しかし、これまでの経験上、子どもが塾で線分図や面積図などの手法で理解できなかった問題をお父さんが方程式で教えた場合、その問題はまず理解できていないのです。

 その大きな理由に、算数と数学における思考方法の違いがあります。

 算数では具体的なことがらを対象とする場合が多く、「今わかっていることから次は何がわかるだろう? そこからさらに何がわかるだろうか?」と前から順を追って考える場面が多いです。一方、数学では一般化された定理・公式を使う場面が増え、それに当てはめて解くことが多くなるため、「わからないものをxとおく」といった方程式的な手法を使う場面が増えます。これらは問題に対するアプローチが真逆であるため、1つの問題で理解できない2つの方法を教えられたお子さんは混乱させられてしまうのです。

 このように言うと「どうせ中学以降は方程式で解くのだから、最初から方程式で教えてしまった方が効率的では」と思われるかもしれません。しかし、一般化された対象を扱うには抽象理解が必要であり、大人と子どもではこの抽象理解力に大きな差があるのです。


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