地方名門校卒の父親の口癖
「努力をすればなんとかなる」
ヒロキくんの家を初めて訪れたのは6年生の7月。成績低迷からなんとか脱出したいと、この時期に家庭教師をつけるご家庭は珍しくありませんが、ヒロキくんの精気のない表情を見たとき、これは相当マズイ状況かもしれないと悪い予感がしました。
ヒロキくんは自分からまったく話をしません。授業を進めていく中で、答えてもらうときはいつもビクビクしていて、お母さんの顔を窺ってからとても小さな声で答えます。その様子からこの子は完全に自分に自信をなくしてしまっていると思いました。
ヒロキくんは小学校3年生のときから、難関中学に強い大手進学塾に通っています。塾に通い始めた頃は成績が良かったようですが、5年生になってから偏差値50台から徐々に下降し、6年生の夏の段階では、どの教科も偏差値30台と低迷していました。
ところが、ヒロキくんのお父さんは、「ヒロキを開成中に行かせる!」の一点張り。開成中といえば、偏差値65を超える首都圏の最難関校です。今のヒロキくんの偏差値を倍にしなければ合格はできません。中学受験専門のプロ家庭教師である私達でも、それは不可能に近いミッションでした。
ヒロキくんのお父さんは、その時、海外に単身赴任中で、日々の学習管理はお母さんがされていました。しかし、今は便利な時代です。ヒロキくんのお父さんは、毎日熱心にスカイプでヒロキくんの学習指導をしていました。中学受験をお母さんに任せきりのお父さんもいる中、子どもの教育に熱心なヒロキくんのお父さん。それはとてもよいことですが、しかしそのやり方を誤ってしまうと、かえってうまくいかなくなるケースがあります。ヒロキくんのお父さんは、まさにそのタイプでした。
ヒロキくんのお父さんは、地方の公立名門校から都内の難関私立大学へ進学しました。学生時代は成績優秀、かつバリバリの体育会系のラグビー部の一軍選手として活躍をしていたそうです。卒業後は大手企業に就職したものの、国家公務員の夢を捨てられず、仕事をしながら独学で資格をとり、晴れて国家公務員に。まさに努力一筋の方です。
そんなヒロキくんのお父さんの口癖は「努力をすればなんとかなる」。しかし、その言葉がヒロキくんに重くのしかかっていたことに、お父さんは気づきませんでした。