「この問題を間違えたら、お父さんに怒られる」
その答案用紙を見た瞬間、これは相当マズイことになっているのではないかと、事態を深刻に受け止めました。6年生の夏休みの終わりに受けたショウタくんの算数模試の答案が、下半分真っ白だったのです。
菅:「ショウタくん、下の問題は全部分からなかったのかな?」
ショウタ:「ううん(首を振る)。問2の問題で時間がかかっちゃって、残りの問題を解く時間がなくなっちゃったの」
見ると、その問2はごく普通の問題で、取り立てて難問というわけでもない。
菅:「どうしてこの問題に時間がかかっちゃったのだろう? どこが難しかったのかな?」
ショウタ:「前にお父さんとやった問題とすごく似ていた。これを間違えたら、お父さんは『この問題は前に一緒にやっただろ!』と絶対に怒る。だから、何度も見直したら時間がかかっちゃって……」
ショウタくんの努力の形跡は確かにありました。答えは正解。それが何よりの救いでした。でも、その後はすべて白紙なので、結果は散々なものでした。
そして、私は大きな不安を感じました。このままでは本当に取り返しのつかないことになるぞ、と。
どう考えても実行不可能な無理難題を突きつける
ショウタくんの家庭教師に就いたのは、5年生の夏のことです。ショウタくんは国立難関中学を第一志望校にしていました。4年生のうちは順調だったショウタくん。しかし、5年生になると、徐々に成績が下がり始めます。それを知ったお父さんは、これまでショウタくんの受験勉強にはノータッチだったのに、突然介入し始めます。そこから、ショウタくんの成績はみるみるうちに急降下していきます。そして、5年生の夏に家庭教師にお声がかかったわけです。
実はショウタくんの成績低迷の原因は、お父さんの存在にありました。ショウタくんのお父さんはマジメで几帳面なサラリーマン。家庭教師である私と話をする時は、とても物腰が柔らかく特に気難しいタイプの人には見えません。ショウタくんのことをとても思っていて、端から見れば“いいお父さん”です。
ただ、ショウタくんが少し幼いタイプの子なので、「ショウタは自分一人では何もできない。私が引っ張っていかなければ!」と思い込んでいる節があります。それを表すのが、お父さんが作成する「学習スケジュール」です。
自宅にあるホワイトボードには、毎日の予定がぎっしりと書かれています。塾のある日、ない日にかかわらず、国算理社の4教科はまんべんなく。復習、宿題、それ以外のテキストに載っている応用問題、計算や漢字などのルーティンワーク、テスト直しも全部網羅しているのです。
でも、これは明らかに詰め込みすぎです。普通なら塾のある日はその日の授業内容の復習だけで手一杯です。塾のない日も宿題を終わらせるだけで大変です。そこにお父さんが指示する学習量を付け加えるのは、どう考えても無理です。お父さんが立てたスケジュールの3分の1がこなせるだけでもたいしたものです。