2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2019年11月28日

 米どころ新潟県では、酒米の山田錦の栽培に衛星を使う見込みだ。山田錦を生産する農家らで構成する新潟県山田錦協議会では、ドローンを使ったリモートセンシングと、測定結果に基づいた無人ヘリによる可変施肥を行ってきた。来年からこれに衛星を加える。分析を担うのは、JAMSSだ。

新潟県山田錦協議会の皆さん

 10メートル四方のメッシュまで解析できる衛星画像を基に、生育の具合をざっくり把握したうえで、問題のありそうな箇所についてはドローンを飛ばして細かに計測し、可変施肥に生かす。

 「衛星で大きく見て、怪しいところをドローンでデータをとる。互いに補完できないかと考えている」

 JAMSSの宇宙事業部宇宙利用革新グループリーダーの伊巻和弥さんはこう話す。

 同協議会では、生産した山田錦を「獺祭」の蔵元である旭酒造(山口県岩国市)に出荷する。山田錦はもともと西日本で栽培が盛んだ。新潟県は山田錦の商業的な生産の北限と言われ、環境が恵まれているわけではない。そんな中でも質の高い山田錦を作りたいと、精密な管理を目指してきた。その精度を一層引き上げるための衛星導入なのだ。「稲の生育を均一にできて、収量が増えるので期待している」と同協議会会長の岩渕忠男さんは話す。

価格と撮影頻度がネック

 ところで、衛星画像の農業利用には課題が少なくないと石塚さんは指摘する。最大のネックは価格の高さ。解像度の低い衛星画像だと、無料で公開されるものもある。ただ、基本的に解像度が上がるほど、価格は高くなる。撮影の期日や場所を指定して撮ってもらう場合、個人の農家では到底負担できない数十万円から数百万円の費用がかかる。

 次に課題となるのが、衛星の回帰周期だ。衛星のサービスを提供する会社によって、ほぼ毎日のようにどれかの衛星が日本上空を通るものもあれば、2週間に1回程度しか上空を通らないものもある。せっかく撮影を依頼しても、雲がかかっていて圃場が写っていないことも珍しくない。

 農作物の収穫適期や生育状態を判断するには、決められた時期に画像が取得できないと精度が下がってしまう。適期の観測は、曇天率の高い日本で衛星を農業に生かすうえでクリアしなければならない課題だ。

 日本が飛ばしている衛星を農業に生かすのは、上記の理由でまだ難度がある。紹介したズコーシャとJAMSSはいずれも海外の衛星を使う。国内では、衛星を開発するアクセルスペース(東京都)が小型の衛星を複数打ち上げ、地球観測網を作ろうとしている。石塚さんは「これが実現することで価格競争が起き、衛星データの価格が下がれば」とこの動きに期待する。

  
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