農業用ドローンでDJIを凌駕すると言えるかもしれないメーカーが中国・広州にある。XAG(旧XAIRCRAFT)だ。ドローンを使った総散布面積は世界38カ国2200万ヘクタール(日本の国土面積は3780万ヘクタール)以上。6万台以上の販売実績を持つ。2017年には初の海外拠点として、兵庫県にXAIRCRAFT JAPANを立ち上げ、18年に独の農薬大手・バイエルと提携した。実績と品質を武器にグローバル企業への転身を目指すXAGの戦略を紹介したい。
国内最大の農業展示に見た本気度
ブランドカラーの赤いドローンにシャワーで容赦なく水が浴びせられる。国内最大の農業生産資材の展示商談会「農業Week」でXAIRCRAFT JAPANのブースを訪れ、その大きさと真ん中に据えられたショーケースに驚いた。10月9~11日に幕張メッセで開催された農業Weekでは、中国系企業の出展の多さが目に付いた。その中でも同社のブースは断トツの広さ。バイエルと共同の出展だったこともあるけれども、日本市場への本気度を表すものだと感じた。
その中央に置かれたショーケースを前に、何を狙った展示か分からず、首をひねってしまった。雨天にドローンが飛ばせないのは常識だ。無理やり飛ばして薬剤をまいたとしても均一に広がらないし、雨に洗い流されてしまうので意味がない。その答えはXAGとバイエルによるセミナーで、XAGの共同創業者で副社長のジャスティン・ゴンさんが明らかにした。
「水をかけることが可能な理由は、雨の中農薬を散布するためではありません。農薬を散布すると機体に薬品がかかります。散布後にそのまま運ぶと身体に農薬がついてしまうので、安全のために必ず水洗いするよう農家にお願いしています」
散布する人への配慮はこれだけではない。最新のドローンではタンクへの農薬の充填が自動でできる。散布の準備から終了後の機体の運搬に至るまで、農薬に全く触れずに作業が可能なのだ。しかも操作はスマホのアプリでできる。これまでに綿花や水稲、麦、柑橘、茶など200以上のさまざまな作物に使われてきた。2200万ヘクタール以上という凄まじい散布実績を持つ理由について、ジャスティンさんはこう言い切った。
「我々がこれだけの量に到達した唯一の理由は、我々のすべてのドローンが操縦者もコントローラーも必要とせず、AIで操縦できるからです」
農業用ドローンの事故で多いのは、電柱や木といった障害物にぶつかること。こうした事故の多くは操縦者のヒューマンエラーが原因だ。完全自動飛行にすることで、ヒューマンエラーによる事故が減り、安全性が高まるという。
技術者集団ながらサービス拡充に舵
中国では農薬散布用ドローンの販売台数も散布面積もトップ。従業員1400人のうち、800人がエンジニアといった技術系の人材だ。2007年にドローンメーカーとして創業し、その後、農業用に特化した開発に舵を切った。メーカーなので、事業の目的は機体の販売だけれども、中国ではあえて農薬散布のサービスも行ってきた。これは実践を技術開発に結び付けるのが狙いだ。新疆といった北の乾燥地帯から南の水田地帯に至るまでの散布実績を持つ。
技術への自信は強く、産業用ドローンの中で自動飛行の精度が最も高いと自任する。創業が07年(DJIは06年)と早く、かつ分野を絞って研究開発を進めてきたからだ。
液剤の散布に使うノズルは農薬の散布量だけでなく、飛沫の大きさまで調整できる。実際の病虫害の状況を踏まえ、薬剤の散布量を調整する可変散布ができる。国内ではスプリンクラーで農薬を一気にまく産地も多い。可変散布にすれば農薬の量を大幅に減らせるという。
同社のドローンは主に農薬の散布に使われてきた。肥料や種子の散布にまで活躍の場を広げようとしている。粒剤や種子の散布装置は、高速の気流を使って2~5メートルの幅に均等にまける。
「この技術を用いると、バイエルの農薬だけでなく種子事業ともコラボレーションが可能です。将来、直播の分野で共同の取り組みができると思います」
ドローンメーカーとして最も有名なDJIは、近年農業向けの新製品を次々発売していて、ライバル関係にある。顧客満足度の向上と新規の顧客獲得のため、XAGは中国でサービスの向上と専門人材の育成をしている。人材育成のための「XAGアカデミー」は「将来の農業エリートを育成する」と掲げ、オンラインとオフラインで農薬散布やドローン操縦などを教える。登録済みの学生は11万人を超えるという。
生産の変革だけでなく、流通改革や農家の所得向上まで視野に収める。独・バイエル、アリババグループの農村を対象にした販売事業「農村淘宝(農村タオバオ)」とともに「未来農場プロジェクト」を2018年に立ち上げた。農産物のトレーサビリティを確保し、付加価値を高めると掲げる。