中国で大型ハウスは50%以上が赤字経営と言われる。にもかかわらず、もともと官主導で建設・運営されてきたこうしたハウスに、民間も参入するようになってきた。1980年代の終わりには生鮮食品の流通網すら整っていなかった国が、いかにして施設園芸大国になったのか。1990年代から中国の施設園芸の現場を見てきた研究者に聞いた。
拡大の一途で面積は日本の46倍
「私が最初に中国で日光温室を見たのは1995年。内モンゴルの砂漠の緑化を見に行ったら、日光温室(前回紹介した中国北部に多い簡易な温室『中国全土で砂漠・荒地が農地に変わる理由』)のフィルムを張っていない骨組みがあった。こういうものがあるのかと思った」
こう語るのは、農研機構農村工学研究部門 農地基盤工学研究領域 農業施設ユニット契約研究員(元筑波大学大学院教授)の山口智治さんだ。1996年から日中の研究者が農業食糧生産を共同研究するプロジェクトに参加し、日光温室を研究した。主に東北3省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)を見て回った。中国を訪れるたび、施設園芸の拡大ぶりを感じている。
日光温室の特徴は省エネであること。フィルムを張った南側から光を取り入れ、北側に築いた厚い土塀で熱を貯める。外気温が下がると、天井から布団のような分厚い布を引き下ろして保温する。
「日光温室は約70万ヘクタールあるとされていて、まだまだ増えている。中国北部で最も儲かる温室の形が、日光温室だ」(山口さん)
その規模が最も大きいのは山東省の寿光市。地平線のかなたまで日光温室のビニールが連なる。生産物は国内向けに出荷するのはもちろん、日本を含む海外にも輸出する。施設面積200ヘクタールという巨大な卸売市場があり、中国の南北の生産地と消費地を結ぶ要所になっている。
この日光温室は、1950年代にガラス製のものが北京で登場した。70年代に日本からプラスチックフィルムが導入され、今の形が作られた。80年代に改革開放の流れの中、農民の収入向上の手段として注目され、今に至る。
ところで、中国の研究者はよく日光温室は暖房が必要ないと主張するそうだ。ただ、山口さんによると、外気温が低くなる中国東北部では葉菜類は暖房なしでも栽培できるだろうが、果菜類は暖房が必要とのこと。石炭を使った簡易なストーブで加温する。
中国の施設園芸の面積は2017年時点で380万ヘクタールとされる。ただし、これはトンネルを含む。トンネルとは、保温して寒さや霜を防いだり、雨を防いだりするのを目的に畝(うね)の上に支柱を立ててビニールを張ったもの。日本でトンネルは施設園芸の面積にカウントしない。トンネルを除いた施設園芸の面積はおよそ200万ヘクタールになる。
それでも、日本の温室の設置面積4万3220ヘクタール(2016年)に比べると、とてつもない広さだ。
その内訳をみると、31.7%が日光温室、65.8%がパイプハウス、2.5%が大型の連棟ハウスだ(2016年時点)。ちなみに日本の場合、16年のデータで温室のうちガラス温室の割合が3.8%、複合環境制御装置のある温室の割合が2.5%。大型で高機能な温室が占める割合がほんのわずかであることは、日中に共通している。