Wedge REPORT

2019年5月27日

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種もみをまいているところ。キラキラと輝いて見えるのが種

 コメの生産コストで最も大きいのは労働費だ(10アール当たり※注)。そのうち、育苗(苗を育てること)と田植えを合わせた比率は3割弱。この部分がカットできると、生産コストの低減効果が大きい。そのために、米カリフォルニア州で一般的な種もみを空中散布する技術を日本に根付かせたい。ただし、圃場の規模に合わせて飛行機ではなくドローンで。こんな試みが福島県楢葉町の水田で行われた。

丈の短い品種を空中散布

 楢葉町の広さ3反(30アール)の田んぼ。ズォーという大きな羽音を立てて、全長2メートル近い8枚プロペラの大型のドローンが飛んでいく。下部に取り付けられたタンクから種もみをばらまき、水面が一部だけ雨粒が落ちているように泡立つ。傍らで見守る農家が「すごいなあ」と声を漏らした。

ドローンに取り付けるタンクに種もみを移す佐藤憲之さん(左)と、ガルト・エアロサービス(富山市)代表の久保治夫さん。この後、久保さんがドローンを操って種もみをまいた

 まいたのは、福島県が開発した「天のつぶ」。「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」に比べて草丈が短く、肥料を多めに与えても倒れにくい。その分、収量がやや多い。しっかり根を張り倒れにくいという特性が直播に向くと判断した。

 主催したのは、コメ産業のイノベーションを掲げる田牧ファームスジャパン。稲作の低コスト化には空中散布が最適だと考え、ドローンにアタッチメントとして取り付ける播種機を開発中だ。今回は試験散布として、通常の顆粒の肥料をまく市販の装置を使って種もみをまいた。

 田植えをしない直播で、よくあるのは湛水直播と乾田直播。前者は水の入った田んぼに種を直接まき、後者は水を張っていない乾いた田んぼにまく。種もみは、鳥に食べられないように土と見分けがつかないよう鉄粉をまぶす鉄コーティングにしたり、酸素発生剤のカルパーをコーティングしたりする。

播種の準備に特殊な技術は不要

 今回の空中散布は、水を張って種をまくので、湛水直播に当たる。通常の湛水直播は代かきが必要だ。水と土を混ぜて泥状にして均平をとり、雑草が生えないようにし、苗を植え付けやすくする作業だ。代かき後、田植え前に「落水」といって水を一旦排出するため、泥水が河川や湖沼に流れ込む問題がある。

田牧ファームスジャパン代表取締役の田牧一郎さん

今回の手法では、代かきはしない。田んぼが乾いた状態で整地し、その後で水を張る。散布後すぐに成長するよう、種もみを「鳩胸状態」と呼ばれる少し芽が出た状態にした。田植えのための育苗でも種もみを鳩胸状態にするため、特別な技術は必要ない。種もみの処理が簡単で、特別な薬剤が不要なため、「最も低コストで作付けできる方法」だと田牧ファームスジャパン代表取締役の田牧一郎さんは言う。田んぼにまいて2、3日すれば、芽と根が出る。

 種もみの空中散布は、無人ヘリコプターで行うことも可能だ。ただ、農業用の無人ヘリは一機が1000万円前後と高い。ドローンは一般的に数十万円から数百万円と、相対的に安い。

 散布に使ったのは専用の播種機ではなく、粒状の薬剤をまくための既製品。そのため、一度飛ぶだけでは必要量がまき切れず、同じルートを2、3回飛んで種まきを終えた。種をタンクに移す時間と散布時間を合わせて、30アールまくのにかかった時間は10分強。開発を担当する同社の宇佐美昌樹さんは「種の散布できる量を今の3倍くらいにした播種機を開発する」と話す。10アール当たりの作業時間を1分~1分30秒に短縮するつもりだ。

がんたらの佐藤憲之さん

 実証が行われた田んぼを耕作するのは、コメの生産から販売までを一貫して手掛ける米屋のがんたら。代表取締役の佐藤憲之さんは、作業が終わった後、こう話してくれた。

 「今回は3反だけだけれど、散布できる面積が1ヘクタール、2ヘクタールとなったときのコスト削減の効果に期待している」

 がんたらは佐藤さんを含む従業員4人で水稲20ヘクタール、たまねぎ3ヘクタールを生産する。水稲はほとんど業務用で、米屋が農業参入したとあって、売り先には困らない。今最も頭を悩ませているのが、人手不足だ。楢葉町は2015年9月に避難指示が解除され、人口に占める町内居住者数は5割強。町は農業の本格的な再開を掲げているけれども、相当の面積が耕作されないままだ。

田牧ファームスジャパンは播種機の開発を進めており、2020年の作付けに使いたいという

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