2024年12月14日(土)

WEDGE REPORT

2019年1月17日

(liulolo/gettyimages)

国費から私費への変化、大学院拡張もあり質低下

川島博之(かわしま・ひろゆき) 1953年、東京都に生まれる。東京大学工学博士。東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。専門は、環境経済学、システム農学。2011年には、行政刷新会議ワーキンググループ(提言型政策仕分け)の評価者を務める。1977年、東京水産大学卒業。1983年、東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学。農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを歴任。著書には、『習近平のデジタル文化大革命』(講談社+α新書)、『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』(講談社+α新書)、『「食糧危機」をあおってはいけない』(文藝春秋)、『「作りすぎ」が日本の農業をダメにする』(日本経済新聞出版社)などがある

 質の面でいうと、右肩下がり。私が最初に出会った中国人留学生は、1980年ごろに東京大学の修士課程に留学してきた。「中国3000年の秀才」と言われるような、優秀な女性だった。何でも知っていて、黒板に書かれた内容をそのまま暗記できるような人。留学が始まって最初のころは、国費留学で大変な倍率の競争を潜り抜けて入ってくるので、とびぬけて優秀な人が来ていた。

 今から30年ほど前に来た世代の、今50代半ばくらいの人たちは、天安門事件を同時代で経験している。70年代末に改革開放が始まって、経済的には豊かになってきていたけれども、まだまだ、私費留学できる時代ではなかった。この世代はとびぬけてできるというよりは、努力家が多く、日本で大学の教員をしている人も多い。

 今の40歳くらいになると、だいぶレベルが落ちてきた印象がある。だから、レベルは受け入れ開始以来ずっと下がっていて、中でも過去10年は、著しく落ちた。理由は、大学院の定員を拡張したからだ。いまや、どこの大学院も留学生を受け入れないと、成り立たなくなっている。これは東大も含めて言えることだ。日本人に人気の学部以外は、中国人の割合が上がっている。

 国費に加え、私費で留学する学生が増え、留学生数自体が増えているので、レベルは低下している。学部は日本人が来るけれども、大学院は、就活に不利という問題があって不人気で、日本人だけだと定員割れしてしまう。それで留学生が増えている。特に地方の大学になると、中国人留学生なしでは経営的に成り立たないところが増えているだろう。

日本選ぶのは学費が相対的に安いから

 日本を選ぶ理由は、アメリカだと学費が高く、日本は安いから。中国人学生の場合、出身大学よりもブランド力のある大学院に入る「学歴ロンダリング」の傾向が強い。中国の二流大学出身で、そのままでは就職に不利なため、日本の大学に来る学生が多い。

 経済的に豊かになってきているので、昔よりもアルバイトをする学生が減った。北京、上海といった大都市以外の地方都市から来る学生が増えている。彼らは中国の大都市で就職したいと思っても、大都市の戸籍を得るのが難しい。住んでいる都市の戸籍がないと、医療や子供の教育などの面で、不利な扱いを受ける。そのため、中国には戻らずに日本で就職したいと考える人が増えてきたと感じる(筆者注:中国の戸籍制度については、川島博之『戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊』(講談社、2017年)に詳しい)。

 これまで私の研究室では、留学生を欧米やアジアから広く受け入れてきた。近年、アジアから優秀な学生を集めにくくなっていると感じている。20代の優秀なベトナム人の留学生から「自分が留学を決めたときには、東大は大学の世界ランキングで順位が高かった。今では数十位なので、自分の子供は東大には行かせない」と言われたことがある。


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