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2019年11月1日

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 北海道鹿追町で地権者の境界を越えて農作業をする「トランスボーダーファーミング」が議論されている。同町ではここ20年で農家1戸当たりの農地が倍増し55ヘクタールに達している。今後もこの流れは変わらず、いずれ1戸100ヘクタールの時代が来るかもしれない。境界を越えて耕起や播種、農薬や肥料散布、収穫をするということは、農家としての醍醐味を奪うことになると抵抗を感じる人も多い。JA鹿追町(本所・鹿追町)でトランスボーダーファーミングを実証する今田伸二さんに現状と課題を聞いた。

コントラクターによるキャベツ収穫のようす(鹿追町)

ICTの良さを最大化するには

――トランスボーダーファーミングの導入の議論はなぜ始まったのでしょうか。

今田伸二さん(JA鹿追町営農部審議役)

今田 畑作農家は1戸当たり47ヘクタールの農地を持っていて、畑作4品と呼ばれる小麦、豆類、てん菜、バレイショを主に作っています。作業ができるのは夏場だけなので、面積が広いと適期に作業ができないという問題が出てくるんですね。規模拡大と共に収量が落ちてくるとか、畑作4品の中で一番労働力のかからない小麦を多く作るようになって収益が落ちるといった問題がありました。それを補うためにさまざまなことを考えてきました。

 高収益作物としてキャベツを導入し、もともと手作業で収穫していたのを収穫機を開発しました。バレイショについても、性能の良いハーベスターや合理的な栽培体系を作ってきました。しかし、それでも限界を感じるようになっています。労働力不足が足を引っ張っていると言えるでしょう。

 なんとか労働力のかからない技術を考えなければいけない。そこでICT技術に注目しました。2015年にRTK基地局を単協としては初めて立ち上げ、今は町内のトラクター200台ほどが自動操舵に対応しています。

 自動操舵になることで、作業の効率は上がります(筆者注:耕起や薬剤散布の重複が減り、効率的な走行ルートの設定により燃料代の無駄を省ける)。ただ、100メートル走ってすぐ畑の外周に達して旋回しないとならず、ICTの良さというのが使いきれていないと思います。作業性を高めるためには畑を大きくしないといけません。畑の大区画化を一部の地区で行い、畑を区切っている明渠を埋めたり、作業用道路をつぶしたりして、大きいものだと1枚が20ヘクタールという畑ができました。

 ただ、1枚は大きくなったけれども、中に地権者つまり作付け者が何人かいて、大きな機械を入れられず、効率的にならない。「どうしたらいいだろう」と言っていたら、研究機関からトランスボーダーファーミングの話が舞い込んできて、考えてみようじゃないかとなったのがきっかけです。

規模拡大が所得につながると証明したい

――今はどこまで進んでいるのでしょうか。

今田 トランスボーダーファーミングはまだ始まっていません。今は、大きい畑で作業をすると効率がいいということを実証して示している段階です。この秋に1枚15ヘクタールで所有者が1人の畑で、ビートの収穫に大型機械を使ってどのくらいの時間で収穫できるか試します。

 地権者の境を超えて耕作するというのは、まだできません。トランスボーダーファーミングは、農家が生産者ではなく、所有者に近くなります。自分の畑でほかの人が作業をして、収益が分配される。農家は作ることで喜びを感じますよね。それが、大きな機械で作業できる人に任せて、作業料金を払って、収益の分配を受けることになります。「それは農家としては切ない」という意見が強いんです。

 トランスボーダーファーミングによる効率化が所得につながるということを実証しようとしています。大きい畑を作って、今開発している技術のすべてを投入するということです。将来に向けた布石にしたいですね。今やっていることは実証でもあり、啓蒙でもあります。実用化に向けては農家の意識改革が必要で、ハード面よりソフト、しいて言えばハートの問題でしょう。

 作業の面積が大きくなれば、今はスプレイヤー(噴霧機)を使って薬剤をまいているのを、セスナで散布できるようになるかもしれません。何時間もかけてやっていたことが、数分でできるかもしれない。ただ、農家から自分が作った農作物だという誇りを取っ払ってしまうことになりかねません。ですが、現実を見ると、そこにこだわり続けられないと感じます。

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