「デニムといえば岡山というイメージが定着しています。本当は福山のほうがデニムの生産量は多い。国内生産の5割以上が福山です。それでも岡山に出荷して仕事はあるのだから、まあ良いかと思っていたんです」
広島県福山市でデニムの縫製工場を営むNSGの名和史普社長はそう振り返る。
岡山県と境を接する福山市は、備後カスリのモンペの伝統を引き継ぎ、作業着などの製造に関わる企業が集積している。厚手の生地の加工という得意技を生かして、いち早くデニム生産に乗り出した企業も多い。デニムでいえば、素材の糸の染色から布地の織り、縫製、そしてエイジング加工まで、10キロほどの地域に関連企業が集まっているのだ。
本来ならば「デニムの聖地」と呼んでも良い場所にもかかわらず、不思議なことに企業同士のつながりは薄かった。それぞれの企業が他地域の大手の下請けとして、仕事を得ていたからだ。お互い名前は知っていても、一緒に連携して製品を作るという発想がなかったのである。
3年前の2016年秋、そんな福山に「よそ者」がやってきた。
「福山ビジネスサポートセンター(フクビズ)」。地域の中小企業の相談に乗り、経営改革や新規事業の立ち上げなどをサポートする。国と自治体がカネを出すが、運営は民間。センター長やプロジェクトマネジャーは、ビジネスの世界で経験を積んだ人たちを公募する。静岡県富士市で元銀行マンの小出宗昭さんが始めた富士市産業支援センターが「f−Biz」モデルと呼ばれて全国に広がったものだ。所長たちは1年契約で、成果を上げることが求められる。
そのフクビズにプロジェクトマネジャーとして採用されたのが、池内精彦さん。「ウォルト・ディズニー」や「エルメス」「ジョージジェンセン」「バリー」といった名だたる海外ブランドの管理や経営に長年携わってきた「ブランド・マネジメント」の専門家だ。