2024年7月16日(火)

インド経済を読む

2019年12月6日

航空スケジュール再編から見える日本経済の弱さ

 ここまで書くと、

「おお、日本とインドのビジネスや人は交流が増えているのだな。経済の活性化には良いことだ。」

 と好意的に受け取る反応が多くなるのだが、実際は諸手をあげて喜ぶわけにもいかない現実がある。

 一つは関西経済の地盤沈下だ。

 JAL、ANAの南インド便の開設、そしてデリー便の羽田発化という大きなニュースの一方、関空からのインド便には一向に活性化の兆しがない。

 そもそも日系のフライトはなく、関西からインドに向かう場合は基本的に香港か、広州、もしくはバンコク経由での移動となる。その中で唯一香港で機体を乗り換える必要がないエアインディアの便は便利なので私もよく利用しているのだが、成田便とは打って変わって空席が目立つ。9月に一旦飛ばなくなった時は、もうこれで廃線かと思われたが、1月からまた復活するようで日本の拠点を関西に置く私はホッと胸をなでおろした。

 実際私がインドで商売をしていると、進出する日本企業が首都圏及び東海地区の企業が多いのに対して関西の企業はケースが少ないように見える。企業数が関西よりも少ない九州や北関東の企業のほうがまだインド進出への意欲は旺盛に感じるくらいだ。また登記上の本店が関西にあったとしてもそれは形式だけであり、国際事業部始めとするほとんどの部署は東京にあるため、実際インド案件を担当しているのは東京の部署というケースも少なくない。

 少子高齢化により国内パイが縮む日本企業にとっての最適解が「海外進出」であることは疑いようのない事実であり、実際多くの日本企業はそこに活路を見出しているのだがその動きも関西圏ではどうも2周くらい遅いように感じられる。インド人をビジネスの視察で日本に連れてくると皆口をそろえて「大阪は東京よりインドに似ているから大好きだ」と言うので、ポテンシャルはあると思うのだが、ども関西の企業はそのポテンシャルを活かせていないようだ。

 日印間の往来の活発化…と言っても実際の往来は結局首都圏に集中しているのだ。

 またもう一点、この日系航空業界の動きも素直に喜んでいられないという理由もある。

 今回のこの日印間の大幅なフライトスケジュールの再編、実は日本を最終目的地とするためでなくインドからアメリカへのフライトの増加を想定していると言われている。先述にようにJAL、ANAともにデリーから羽田着の時間は朝の6時~7時と非常に早くなっているのだが、これはアメリカ便へのトランジットを考えてのものだと言われている。実際同じタイミングで多くのアメリカ便が成田から羽田に移っているのだ。また成田発のアメリカ便だとしてもこれくらい早い時間に着いたのであれば余裕をもってトランジットできる。

 実はインドにとってアメリカは完全な地球の裏側にあり、そこから英国経由でも日本経由でも搭乗時間はあまり変わらない。関税上の問題で今年一度はギスギスしたものの、対中国の要としてインドを安全保障に加え経済上も重視するアメリカ政府の長期的方針もあり、またグーグルを代表とするアメリカの巨大企業が次々のインドに拠点を作りつつあるため、アメリカとインドの経済関係の重要性の高まりのスピードは日印間のそれをはるかに凌いでいる。今年9月にアップルがインドで生産工場を作ると発表されたことを覚えている人も多いだろう。

 「航空スケジュールの再編により日本とインドの往来が増える!」と言ってもその内容は実は、インド⇔アメリカ間の往来の増加の「乗り換え駅」としての要素も多分に含んでいる点は留意する必要がある。

 相互の首相が頻繁に往来するように、確かに日本とインドの関係は経済上も安全保障上もどんどん強くなっている。しかし成長する有望市場であるインドと日本「以外」の国の関係はそれ以上のペースで強くなっているケースが多い。

 安倍政権になってから日本はいろいろな成長国との関係を強化することにまい進しているし実際その方向性は間違っていないだろう。ただそれに加えて日本自身の基礎体力も強化しないと、言い換えると相手にとっても「旨味のある国」にならないと、その「相対的な関係の濃さ」はジリジリ下がっていくだろう。

  
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