2022年7月5日(火)

さよなら「貧農史観」

2012年4月19日

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昆 吉則 (こん・きちのり)

『農業経営者』編集長

1949年神奈川県生まれ。農機業界誌編集を経て、87年に株式会社農業技術通信社設立。93年に日本初の農業ビジネス誌『農業経営者』を発刊。

行政から民間会社に任せよう

 農業経営者たちは、技術レベルの高い研究者や種苗会社、海外情報に繋がっている人々を求めている。だが、現状の制度は、「経営力を持っているが、技術を知りたい」「技術力を持っているが、経営を知りたい」との彼らのニーズに応え切れていないといえるだろう。

 北海道河西郡芽室町で畑作と畜産を営む大野ファーム・大野泰裕氏が事務局長を務めるSRU(Soil Research Union)という酪農・畑作の農業経営者グループがある。彼らは行政や企業の援助を受けず、豪州在住のコンサルタント・エリック川辺博士の指導を仰いでいる。90年に5人のメンバーで始まったSRUの会員は現在約200名。彼らは各自の畑や草地の土壌サンプルを取り、それを米国のラボに送って土壌分析をし、そのデータをもとに川辺博士から農家毎に土壌改良の処方箋を作ってもらう。同時に博士から土壌に関するアドバイスを受ける。毎年30~40万円位の費用をかけているが、それによって百万円単位で肥料代を軽減し、増収や作物の品質アップを実現している。

 彼らは博士の指導に基づき各肥料要素を圃場(ほじょう)の状態に合わせて自ら配合して施肥する。一方、多くの普及指導員は、こうした科学的知見に基づいた施肥指導ができないため、連作障害や環境汚染などの原因となる肥料要素の過剰施肥が続いている農家も散見される。

 また、日本ではオランダ型の先端的なハウスが補助金で導入されても、その管理ノウハウを伝える能力を持った指導員や民間会社がきわめて少ないため、目標とする収量レベルに達していないケースがほとんどだという。

 そんな状況に風穴を開けようとする農業資材卸業者がある。愛知県豊橋市のイシグロ農材(石黒功社長)では、オランダから先進的なハウスを導入するだけでなく、同国のコンサルタントから技術情報を収集し、生産者に情報提供や指導を行っている。息子の康平さんも、オランダのワーゲニンゲン大学を卒業し、同国に駐在しながらオランダ流のノウハウや技術を日本に移転したいと奮闘している。しかし、同社では、そうしたコンサルタント料を十分に回収できずにいる。行政や農協による「無料」の指導があるため、ユーザーから「なぜ有料なのか」と問われかねないからだ。普及指導員制度が民業圧迫になっているのである。

 筆者はレベルの高い普及指導員がいることを承知している。だからこそ、言いたい。日本農業の成長と農業界全体を底上げするためにも、彼らが民間会社のコンサルタントとして活躍できる状況を作るべきだ。民間の力で変えようとする人が、組織が、この国には必ず存在している。彼らの持つ力を伸ばす環境を整えれば、日本だって、オランダのような農業大国になれるはずだ。

◆WEDGE2012年4月号より

 

 

 

 

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