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2019年12月16日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 トランプ米大統領のウクライナ疑惑をめぐって、下院司法委員会は先週、大統領の弾劾訴追条項案を可決した。18日にも本会議で採決され上院での弾劾裁判が始まる見通しだ。

 有罪が宣告される可能性が限りなく低いことはすでに指摘されているが、可決された訴追条項をみても、有罪を示す決定的な事実、根拠が不十分ではないかとの疑念を抱かせる。

 本音では弾劾に消極的であるにもかかわらず、党内の不満をやわらげるために訴追に踏み切らざるを得なかったナンシー・ペロシ下院議長(民主党、カリフォルニア州)の苦しい胸の内が伝わってくるようだ。

ペロシ下院議長

弱い政権の危機感、国民の緊迫感

 訴因である弾劾条項は、「権力の乱用」と「議会に対する妨害」の2項目。12月13日の下院司法委員会で、所属41議員のうち、民主党が欠席1人を除く23人が賛成、共和党は17人全員が反対した。共和党からの造反はなかった。

 弾劾訴追を受けてトランプ大統領は「弾劾を軽く扱っている」「米国民はうんざりしている」と非難、ホワイトハウスは声明で、「上院において、公正な扱いと適適正な手続きを期待する」と早くも弾劾裁判の手順をめぐってけん制した。

 1974(昭和49)年、ウォーターゲート事件でニクソン大統領(当時)は、下院司法委員会による訴追条項可決の直後、本会議採決を待たずに辞職を決意した。トランプ弾劾にあてはめてみると、まさにいまのタイミング、トランプ氏も、それだけ深刻な状況に置かれているということだが、政権側の危機感、米国内の緊迫感は当時とは比べものにならないほど弱い。弾劾成立の可能性が低いと高をくくっているからだろう。

規定が難しい「権力乱用」 

 今回の弾劾訴追条項のひとつ「権力の乱用」は、トランプ大統領が、ウクライナへの軍事支援の見返りとして、バイデン前副大統領とその次男が関係する同国のエネルギー企業の疑惑について調査するよう要求したことだ。

 次期大統領選での民主党の最有力候補とみられているバイデン氏に打撃を与え、自らの選挙戦を有利に導こうとしたなら、合衆国憲法が規定する弾劾理由「反逆罪、収賄罪または、その他の重罪および軽罪」にあてはまるという。

 トランプ氏の要求は、7月に行われたゼレンスキー大統領との電話協議の席でなされたが、公表された両首脳の会話速記録を見る限り、トランプ氏が権力をかさにきて圧力をかけたかどうかは、微妙なところだろう。「バイデンの息子について、いろいろいわれている。バイデンは起訴を中止させたが、多くの人がそれについて知りたがっている。訴追中止を自慢してのは不愉快だ。もし調査してくれれば・・・」というのがその発言であり、軍事支援については触れていない。

 そもそも、合衆国憲法では「権力乱」についての具体的、明確な規定がなく、それだけに、弾劾裁判での立証には少なからず困難がともなうだろう。

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