- 北朝鮮による人権侵害を非難する決議が先に国連で採択された
- 日本は毎年、共同提出国として決議を主導してきたが、今年は見送り
- 日朝関係の現状を判断した結果だという
- しかし、安易な迎合・配慮は北朝鮮から足元を見られるだけだ
- 被害者全員を即時帰国を求め続けなければならない
日本人の拉致を含む北朝鮮による人権侵害を非難する決議が先に国連で採択された。日本は毎年、共同提出国として決議を主導してきたが、今年は見送った。安倍首相が求めている金正恩朝鮮労働党委員長との直接対話を実現するため、先方を刺激するのを避けるという思惑のようだ。
拉致問題は安倍内閣の最重要課題だ。安易な配慮、迎合によって、北朝鮮からは足元をみられ、国際社会からも解決に向けた真剣さへ疑念を抱かれる恐れはないか。日朝対話が実現をみればともかく、そうでない場合、国益を大きく損なうことになるだろう。
「日朝関係の現状を判断した結果」
北朝鮮の人権状況に関する決議は、国連総会第3委員会で11月14日に採択された。拉致被害者とその家の長年にわたる苦痛と懸念に対する北朝鮮の消極的な対応を非難し、「強制失踪に関する訴えを受け止め、被害者の所在、安否、関連する情報を可能な限り早期に家族にもたらす」ことを要求。「日本政府との合意で開始された日本人に関する調査についても前向きな対応を欠いている」とわが国の被害にも言及している。
拉致以外でも、政治犯収容所における過酷な処遇、拷問や冷酷な処罰が継続されていること、1000万人が栄養失調、幼児の3分の1が必要最低限の食糧を提供されない悲惨な状況にありながら、当局がそれを無視して核兵器や弾道ミサイルに多額の予算を費やしているーなど北朝鮮の人権の劣悪さを網羅した内容になっている。
採択は15年連続。日本は2年目から昨年まで欧州連合(EU)とともに共同提出してきた。
今回の方針変更について日本政府関係者は「拉致問題に関して国際社会が継続的に発信していく重要性や現在の日朝関係をとりまく情勢を総合的に判断した結果」(11月16日、産経新聞)と説明している。
日本が北朝鮮の人権をめぐる決議案の共同提出を見送ったのはこれが初めてではない。2019年3月、ジュネーブの国連人権理事会でもやはり北非難決議案の共同提出を見送った。このときは菅官房長官が「米朝首脳会談の結果や拉致問題を取り巻く諸情勢を総合的に検討した結果だ」(3月13日の記者会見)と説明した。
日本が北朝鮮に対話を呼びかけているなかで、先方に対して一定の配慮はあってしかるべきだろう。時に思い切った譲歩をもとめられることもあろう。しかし、拉致事件の解決は、内閣の最重要政策課題であって、多くの日本人の生命がかかった問題だ。安易な配慮は禁物のはずだ。