成算のない外交交渉など、みせられる国民のほうがつらい。北方領土問題がそれだろう。
先週、ロシアで行われた安倍首相とプーチン・ロシア大統領との会談、案の定、領土問題で何の進展も得られなかった。大統領は強硬姿勢を崩さぬばかりか、日本の神経を逆なでするような言動を弄した。日本側が、国後、択捉返還を事実上断念するという大きな譲歩をしているにもかかわらずだ。11月に再び首脳会談を行うというが、歯舞、色丹2島の返還すら困難な状況になってきた中で、日本側にどんな打開案があるというのだろう。従来の方針を放擲した昨年の「シンガポール合意」は取り返しのつかない事態をもたらしたというべきだろう。
首脳会談の朝、色丹の企業に祝辞
日ロ首脳会談は9月5日、東方経済フォーラムが開かれたロシア・極東のウラジオストクで行われた。
日本外務省の発表によると、両首脳は平和条約問題について、未来志向で作業をすることを確認。交渉責任者である両国の外相に対して「双方が受け入れられる解決策を見つけるための共同作業」を指示したという。
これだけでは領土問題に進展があったのか判然としないが、プーチン大統領は、会談後のフォーラム全体会議で、1956(昭和31)年の日ソ共同宣言をもとに平和条約締結をめざす従来の考えに言及した。その一方で、「この問題は2国間だけに関係するものではない。軍事、安全保障に関する問題もある。日本の米国を含む第3国に対する義務を考慮しなければならない」と述べ、領土問題解決には日米安保条約が障害になるという認識をあらためて強調した(9月6日付け読売新聞)。
大統領はこれに先立って9月5日未明、ロシア企業が色丹島に建設した大規模水産加工施設の稼働開始式典にビデオ中継で参加、「給料のよい雇用が極東で生まれることは重要だ」と祝辞を送った(同)。
これから首脳会談を行うというその朝に、自らが不法占拠を続け、返還要求をはねつけ続けている日本の北方領土での工場建設を祝うというのは、挑発、いやがらせといわれてもやむをえまい。
8月には同じ北方領土の択捉島をメドベージェフ首相が訪れ、開発事業を視察している。
こういうロシア側の態度を見る限り、あらためて先方には領土を返還する意思がみじんもないと判断せざるをえない。