2022年8月8日(月)

WEDGE REPORT

2019年12月16日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

攻防の焦点「議会妨害」か?

 もうひとつの理由である「議会妨害」。大統領は、議会の弾劾調査に対して、関連書類の提出を拒否、政策顧問やホワイトハウス高官への議会からの召喚状を無視するよう指示したという。

 ニクソン大統領の場合、証拠となる大統領執務室での音声録音記録の提出を求める召喚状を拒否したため、「議会侮辱」が弾劾理由とされた。議会証言や書類提出に従わない場合、米国の法律では「軽罪」にあたるというが、ホワイトハウスは、「合衆国憲法は大統領の上級顧問に議会証言を強制していない」と反論、トランプ氏の弁護士も、手続きが公正さを欠いているため、拒否は当然と反発している(ロイター通信)。 

 弾劾裁判ではこのあたりの立証、反論が大きな焦点となりそうだが、訴追委員を務める下院司法委員会がどの程度攻めることができるか。

大統領の行動、国民に判断委ねる

 下院本会議での採決は18日にも行われ、弾劾裁判は1月に始まると予想されている。弾劾成立・大統領解職のためには上院での3分の2の賛成が必要だが、共和党が多数を占め、しかも下院司法委員会での採決にみられるように、共和党から造反者が出る可能性は少ないとみられる。

 民主党にとっては徒労に終わる公算が大きいが、同党はなぜ、あえて弾劾に踏み切ったのか。

 ペロシ議長は当初、弾劾にはきわめて慎重だった。今年3月、ロシア疑惑をめぐる特別検察官の捜査が大詰めを迎えていた時、米メディアのインタビューの中で「弾劾は国家を分断させる。明確な証拠と圧倒的な超党派の力で進められない限り(弾劾は)すべきではない」との見解を披歴していた。

 クリントン大統領が1999年に不倫・偽証疑惑で弾劾裁判にかけられた際、無罪評決を受けた後に人気が上昇、逆に訴追に追い込んだ共和党の支持率が低下した事実も、慎重姿勢の理由のひとつだったようだ。

 一転して2019年8月、ウクライナ疑惑を受けて、弾劾調査に入るよう関係委員会に指示したが、議長はなぜ方針を変えたのか。

 さまざまな憶測がなされているが、ひとつは、民主党内、とくに新人議員を中心に弾劾を求め声が強く、無視し続けると党内の統制が取れなくなると判断したからだといわれている。

 一方で、無罪承知であえて弾劾裁判に持ち込むことで、トランプ氏の疑惑の詳細をさらに国民の前にさらし、来年の大統領選で再選を阻もうという戦略だ。

 今回の訴追条項がやや不明確なのは、有権者自身に自由に思いをめぐらしてもらい、その過程でトランプ氏のさまざまな〝不適切な言動〟を想起させ、反トランプ感情を高めようという思惑だ、といううがった見方も一部の米国内の学者らの間でなされている。

 在職32年、ベテランらしい周到さともいえそうだが、功を奏するか。〝凶〟とでれば、国論を2分させたと批判を浴び、一方でホワイトハウス奪還もならないという厳しい結末を覚悟しなければならないだろう。

 司法委員会での可決の後、議長はツイッターで「以前の共和党下院議員は、自ら宣誓した意味を知っていた。今の共和党議員もそうしてはどうか」と呼びかけた。

 年明け早々、米国では激しく熱い政治闘争が展開されることになる。

  
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