2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2012年4月24日

 日本のメーカーが韓国勢の強さの源泉を批評するときの内容はほぼ共通している。(1)品質8割価格5割、(2)国策による支援(法人税、補助金、電気料金)、(3)ウォン安、(4)日本からの技術者流出、(5)リバースエンジニアリング(既存の製品を分解・解析してより良い製品を作る)だから研究開発費がかからない、(6)製造装置メーカーが「フルターンキー(ボタンを押せばよい状態)」で、製造装置を販売してしまう。

 背後にあるのは、技術では負けていないのに、外部的な要因によってコスト競争力を付けた韓国勢にしてやられているという意識だろう。

 たしかに、「同じ土俵で戦うことさえできれば……」という恨み節が出てくるのは致し方ない側面がある。(2)の国策については、1990年代末のアジア通貨危機でIMF管理となり、産業別に大胆に企業を再編したこと。さらに、韓国政府が、20年までに官民合わせて15兆(1兆円強)の集中投資を通じて、中大型電池での世界シェア50%、素材の国産化率75%の達成を掲げていることなどが挙げられる。このあたりは、個別産業政策をはるか昔にやめてしまった経済産業省に頭を切り替えてもらわないといけない。

 しかし、国策の差という側面を差し引いたとしても、技術力の差を過信するのは危険である。「電池もモジュールになり、EV用ですらコモディティ化しつつある」(独立系電池専業メーカー、エナックスの三枝雅貴社長)のなら、中大型電池においてもわずかな技術力の差よりも、コスト競争力が優先される時代に入っているとみるべきではないか。

 家庭用蓄電システムに使用するLiBに関してサムスンSDIと独占売買契約を結んだニチコン(京都府京都市)の古矢勝彦執行役員は、「サムスンの技術力は10年前に比べると急速に上がっている。何より、経営判断が素早く戦略的。長期的視点に立って、大規模な投資を即断する。貪欲に吸収し学ぼうとする姿勢が素晴らしい」と語る。

 たしかに、流出した日本人技術者や、日本の製造装置メーカーの機械を使い、リバースエンジニアリング、いわば物まねの精神で、韓国企業が追撃してきたことは納得いかないかもしれない。しかし、もう済んでしまったことだ。むしろ、経営力で差をつけられてしまっていることを冷静に直視し、韓国企業の長所を学ぶという精神に立つべきではないだろうか。

 日本の複数のLiB関係者は、こう口を揃える。「90年代までは、毎年、もっといえば毎日のように新しい技術が出てきたのに、ここ最近、進歩が緩やかになっているように感じる」。

進化が止まった日本企業

 00年当時、日本勢のLiBの世界シェアは9割を超えていた。「市場が大きく拡大した時代に、電池メーカーは忙しくなりすぎて、材料開発が素材メーカーに任せっきりになり、製造ラインの改良などの生産技術も、装置メーカーに依存するようになった」(ある素材メーカーの技術者)。

 つまり、この10年、日本の電池メーカーの技術力は、空洞化が進んでいたのではないかという見方である。さらに、この数年は、業界全体の収益が厳しくなった。貧すれば鈍するで、ある電池メーカーでは「新規開発は予算がかかるからストップされ、既存品のコストダウンばかりやらされる」ことになったという。

 サムスンSDIで常務を務める佐藤登氏は、元ホンダの技術者だ。ホンダでは90年代初頭から本格的に電池の開発が始まった。佐藤氏は、当初からLiBの研究開発に取り組んでいたが、徐々に経営判断がキャパシタ(蓄電装置の一種、コンデンサ)に傾いていく。「キャパシタなら誰もやってないから、という発想自体は、チャレンジ精神のあるホンダらしかったが、どう考えても原理的に自動車にはLiBのほうが有望だった」と佐藤氏は振り返る。


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