役員から「キャパシタをやってみないか?」と誘われたが佐藤氏は固辞した。結局、LiBの開発チームからは予算も人も削られていき、佐藤氏と部下一人という状態にまでなった。そんなとき、サムスンSDIから声がかかった。04年1月のことだ。サムスンSDIのCEO自らがオファーに訪れるほど熱烈なラブコールだった。
現地を実際に訪ねてみると、「日本の電池メーカーに比べれば、技術力の差はややあった。ただ、博士号を持った若い研究者を多く採用しているなど、ポテンシャルはあると感じた」。佐藤氏は、サムスンSDIへの移籍を決断する。
佐藤氏が最初に取り組んだのは、日本の素材メーカーとの関係改善だった。サンプルに対する結果のフィードバックがなかったことや、担当者変更の際に引継ぎがされていなかったことなどに苦情が発生していた。佐藤氏は、役員を連れて直接日本の素材メーカーを訪問して謝罪し、改善を約束した。
複数の素材メーカー関係者の声を総合すると、いまでは、韓国企業より日本企業のほうが評判が悪くなっているとさえ言える。情報のフィードバックが不十分なのだ。ある素材メーカーの技術者は「日本の電池メーカーは○か×かという結果だけで、細かい情報がもらえないため、研究開発の効率が上がらない。トップのフットワークが軽く、情報を出してくれる韓国メーカーのほうが協業しやすい」と語る。電池メーカーの技術者によれば、こうなってしまった理由のひとつは、情報流出の懸念だという。韓国勢にキャッチアップされていくなかで、どんどん余裕を失っているのだろう。
「最近では、日本の電池メーカーより先に先端技術の紹介をしてくれるようにまでなった」(前出の佐藤氏)。
小型の失敗が教訓
GSユアサ、NEC
市販化されたEV向けに車載用LiBを量産しているのは、世界で2社しかない。GSユアサと三菱自動車などの合弁会社リチウムエナジージャパン(LEJ)と、日産とNEC、NECエナジーデバイス(NECトーキンからLiB事業を分社化する形で設立)の合弁会社オートモーティブエナジーサプライ(ASEC)だ。
携帯電話向けなどの小型民生用LiBでサムスンSDI、LG化学と戦ってきたGSユアサリチウムイオン電池事業部企画本部長の中満和弘氏は「技術で勝ってもビジネスで負けた」と悔しさを滲ませる。三洋電機との合弁会社「三洋ジーエスソフトエナジー」を11年2月に終了させ、小型民生用LiBから撤退した。
日本勢は、様々な携帯電話のデザインに合わせたカスタムメイドを得意としていたが、韓国勢は相手を絞って少ない種類のLiBを大量に供給することで、コストダウンを実現した。「市場が立ち上がる前にどんどん投資してくる」(中満氏)韓国勢の勝利だった。この経験に学び、EVにおいてGSユアサは、先行投資を積極的に進めている。LEJは09年6月、世界で初めて量産を開始したEV用LiBの生産能力は、この春の栗東工場稼働でアイ・ミーブ換算6.8万台となった。来春には栗東第2工場(同7.5万台)が稼動する。4年で20倍の増強である。