「弾劾」が恒常的な政争の具に?
一方、トランプ大統領への弾劾訴追が決まったことで、米国内で一部懸念されているのは、今後、弾劾が政争の具となり、将来登場する大統領を追い詰める手段として、安易に用いられてしまうのではないかということだ。
合衆国憲法によると、「反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪」が弾劾に相当する理由で、トランプ氏は弾劾裁判にかけられる3人目の不名誉な大統領になる。
最初は南北戦争直後の1868年、リンカーン大統領暗殺を受けて昇格したアンドリュー・ジョンソン氏のケース。陸軍長官(現国防長官)を機密情報を漏洩したとの理由で罷免したことに政敵が反発。議会の同意を得ずに強行したことを理由に訴追された。わずか1票さというきわどい否決だったが、政争の色合いが強かったことへの反省もあってか、その後は長く、大統領が弾劾裁判に引き出されることはなかった。
クリントン大統領が訴追されたのは1998年(裁判は翌年12月)で、実に130年ぶり。ウォーター・ゲート事件でニクソン大統領が下院司法委員会で訴追可決、辞職したのは1974年、これも106年ぶりだった。
大統領弾劾というのは、それほど重い手続きなのだが、ニクソン氏のケースからクリントン弾劾までは24年、それからわずか20年でトランプ弾劾騒動が起きた。
クリントン氏のケースでは、「ニクソン弾劾の報復」ともささやかれ、イラク戦争に踏み切った後任のブッシュ大統領(子)時代には、開戦理由のひとつ、大量破壊兵器の発見に至らなかったことから、ほんの一部からではあったが、弾劾を望む声が聞こえてきた。弾劾が政争の具になってしまっていることをうかがわせる。
大統領と反大統領勢力が対立するたびに弾劾騒ぎを繰り返していては、米国の政治は機能不全に陥り、世界のリーダーの地位の衰退を招く。
ペロシ議長らが、弾劾訴追の手続きになお慎重である背景に、こうした事態への懸念があるとすれば、妥当な判断というべきかもしれない。