2024年7月16日(火)

WEDGE REPORT

2019年12月22日

 21年ぶりの米大統領弾劾だ。ウクライナ疑惑をめぐるトランプ米大統領への弾劾訴追決議が可決された。大統領が罷免される可能性は低いが、訴追がきまった事実は重い。弾劾裁判と大統領選びの同時並行、国内世論の分断の深刻化、弾劾の〝恒常化〟への恐れなど、混乱ぶりが鮮明になってきた。年明けの米国は異常な状況に置かれることになる。 こうした混乱を避けるために、実際の訴追手続きは見送られるか、保留される可能性があるのではないかという観測も一部でなされている。

(TimothyOLeary/gettyimages)

逆効果の〝トランプ追い風〟懸念

 12月18日の下院本会議で決議が採択された後、ペロシ議長は「大統領の向こう見ずな行動で訴追が必要になってしまった」と〝勝利宣言〟したが、その表情は硬く、政敵を追い詰めた高揚感などみじんもうかがえなかった。

 ペロシ議長はじめ民主党陣営が懸念するのは、トランプ弾劾による反作用だ。

 1999年に、不倫・偽証疑惑でクリントン大統領(民主党)への弾劾裁判が行われた際、あろうことかその支持率が上昇、逆に共和党の人気が低下。直前の中間選挙で共和党は議席を減らす結果になった。

 トランプ氏の支持率を見ても、12月18日発表のギャラップ世論調査によると、トランプ大統領の支持率は就任以来最高レベルの45%にのぼった。大統領を「訴追すべきではない」という人は過半数を超えて51・5%、5ポイント上昇し、「すべきだ」という人は45%、10月調査より6ポイント低下した。

 18日の下院本会議での採決では共和党議員から1人の造反者も出ず、民主党からは3人が同調(うち1人は、訴追条項の1項目に反対)、1人は共和党に鞍替えを表明した。

 トランプ大統領は同日夜、ミシガン州に遊説、強い熱気のなかで「違法で党派的な弾劾は民主党にとって政治的な自殺に等しい」と無反省、自信満々で強く反発した。

 こうした状況を反映してか、ペロシ議長は、訴追が決まった直後、「上院の動きを見なければ弾劾裁判のための担当者を決められない。いまはわれわれにとって公平な状況ではない」と述べ、上院に対して訴追の手続きをとる具体的なタイミングについて明言を避けた。

 弾劾を立証する検察官役である訴追委員らの人選を指すとみられる。上院で多数を占める共和党のマコーネル院内総務が裁判が始まる前から、「弾劾が成立することはない」と発言していることへのけん制だが、ペロシ発言に対して、訴追断行見送りか、当面保留することへを示唆しているのではないかとの見方もなされている。

 実際に弾劾裁判に持ち込んでも有罪を勝ち取ることは事実上不可能であり、クリントン氏のケースのように逆に大統領の人気を押し上げる結果を招くとトランプ再選を易々と許してしまうため、無理な強硬策は避けるという思惑のようだ。民主党にとっても、弾劾裁判に敗れたという印象を避けることでき、好都合ではある。

 年明けに弾劾裁判が始まれば、2月初旬のアイオワ州党員集会を火ぶたにスタートする大統領選候補者選びの日程と重なる。それが、どういう効果をもたらすか予測できないため、有権者の判断にゆだねる形でトランプ再選を阻もうという狙いがあるのかもしれない。

 ウクライだけでなく、トランプ氏が当選した前回、2016年の大統領選に、ロシアがハッキングで不当介入したといわれる事件へのトランプ陣営の関与疑惑、大統領が不倫相手の元ポルノ女優に1400万円にものぼる口止め料を支払ったといわれる問題などについても、資質にかかわる問題として、あらためて有権者に訴えかけることになろう。


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