2023年11月29日(水)

ビジネスパーソンのための「無理なく実践!食育講座」

2020年1月17日

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佐藤達夫 (さとう・たつお)

食生活ジャーナリスト

1947年5月30日、千葉県千葉市生まれ。1971年北海道大学水産学部卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。日本ペンクラブ会員、女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)、食生活ジャーナリストの会事務局長。主な著書共著書に『食べモノの道理』(じゃこめてい出版)、『栄養と健康のウソホント』(一般社団法人家の光協会)、『これが糖血病だ!』(女子栄養大学出版部)、『安全な食品の選び方・食べ方事典』(成美堂出版)、『野菜の学校』(岩波書店)、『新しい食品表示の見方がよくわかる本』(中経出版)ほか多数。講演活動では、「あなたはなぜやせられないか?」「生活習慣病は自分で治す」など肥満や糖尿病のメカニズムや、「健康長寿のための食事と生活」という食生活と健康にまつわる最新情報を、医師の視線ではなく、一般の人にわかりやすいことばで提供する。あるいは、健康を保つ上で欠かせない技術としての「安全な食品の選び方」や「食品表示の見方」あるいは「健康にいい野菜の栄養情報」を、やさしく解説する。また、長年、女性雑誌を編集してきた立場から、「男性の家事が社会を変える」「中高年からの二人暮らし」などのテーマで、男性の家庭内自立を説く。

お知らせ:本連載をまとめた書籍『外食もお酒もやめたくない人の「せめてこれだけ」食事術』(佐藤達夫 著)が2020年1月18日に発売されます!(※予約受付中)詳細はこちら
(bit245 / iStock / Getty Images Plus)

評価が大逆転した栄養素:食物繊維

栄養学は豹変する……これは私が尊敬する栄養学者の言葉。たしかに栄養学は、数学や哲学や天文学などに比べれば、はるかに歴史の浅い学問だ。近代栄養学は大きな世界大戦(第一次世界大戦、第二次世界大戦)で飛躍的に進歩したのだから、まだ百年チョットの歴史しかない。その割には、人々の生活に大きな影響を与えるので、とりわけ、このところ急速に進歩している。

そのため、少し前までは「悪玉」といわれていた物が急に「善玉」になったり、その逆だったりと、その評価が大きく変わることも少なくない。食物繊維もその1つだろう。

そもそも食物繊維は「繊維状のいかにもスジスジした成分」のことではない。食物繊維の定義は「ヒトの消化酵素では消化されにくい、食物に含まれている難消化性成分の総称」である。簡単にいうと「口から食べても消化・吸収されずに便として肛門から出て行く成分」となろうか。

「体内に吸収されないのだから、栄養的には何の役にも立っていないはずなので、そもそも栄養素とはいえない」と、50年ほど前までは考えられていた。しかし1971年、イギリスのバーキット博士が、アフリカの調査で「食物繊維(ダイエタリー・ファイバー)の摂取量が多い(つまり大便の量が多い)人では大腸ガンになる人が少ない」ことを発表。それ以来、食物繊維は「栄養素ではないが、口から入って肛門から出ていく過程で、発ガン物質を体外に排出したり、大腸壁をきれいにしたり、などの栄養的な働きをする」ことが推測されるようになった。

「何の役にも立っていないし、栄養素とさえいえない」という評価から、「便秘を解消し、ある種のガンや多くの生活習慣病の予防にも役立つ」という、きわめて高い評価を獲得する成分となった。現在では、食物繊維を栄養素の1つとして評価する研究者が多い(中には今でも「栄養的な働きはするけれども、体内に吸収はされないので栄養素とはいえない。栄養成分というのが正確である」とする研究者もある)。

現実的に「食物繊維の多い食材」とは?

そんな食物繊維(のほとんど)は炭水化物に分類されている。炭水化物はタンパク質・脂質と並んで「カロリーを有する3つの栄養成分グループ」の1つだ。かつてはこの3つを「三大栄養素」と呼んでいたが、近年では、カロリーを有するというだけで「三大」と表現するのはいかがなものか、ということから「エネルギー産生栄養素」と呼ぶようになった。

炭水化物は糖質と食物繊維に大別される。炭水化物の中で、消化・吸収される成分が糖質で、消化・吸収されない成分が食物繊維。糖質は、さらに、単糖類・二糖類・多糖類に分けられる。ご飯やパンや麺の主成分であるデンプンは多糖類である。

単糖類(ブドウ糖など)と二糖類(ショ糖=砂糖など)は口に入れると即座に甘さを感ずるので「糖分」とひとくくりにすることもある。これに対してデンプンはすぐに甘さを感ずることはなく、噛んでいると(口の中で分解されて)しだいに少しずつ甘さを感ずるようになる。これはご飯などで経験ずみのはず。

整理すると、炭水化物の中で消化・吸収されない物が食物繊維、消化・吸収される物が糖質。糖質の中で甘い物が糖分、すぐには甘さを感じない物がデンプン。

炭水化物の中でも、単糖類と二糖類は「甘い」のでほとんどの人が大好き。故に不足することはほとんどない。デンプンは「主食」に含まれているので、これも不足することはまずない。問題は食物繊維。これは「甘くない」あるいは「固くて食べにくい」などの特徴を持つことから、不足しやすい成分だ。


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