入社から11年を経た09年、彼女は上司の勧めで社内の試験を受け総合職になった。しかし、その後も大きな挫折があった。自分の仕事に自信が持てなかったのだ。
“この味でいいのか?”と、毎晩泣いた
「例えば味です。最後に決めるのは私なんですよ。“この味で本当にいいのか?”と自信が持てず、だから、誰かに突っ込まれるたびに意見がブレてしまうんです」
おいしいものから、そうでないものまで、自分の時間を使って外食を重ねた。そんな努力をしてもまだ自信が持てず、研究所の人などに“前に言っていた指示と違う!”と厳しく突っ込まれたこともあった。
「実は毎晩、布団にくるまって泣いていたんですよ」
若手であれば、誰もが似た経験をするかもしれない。彼女はどうしたか。できる限りのことをしたら、あとは、自分の感覚を信じることにした。“私はターゲットと同じ、平均的な食生活を送ってきた女性じゃないか”と自分を奮い立たせた。
覚悟を決めて挑めば、自信はあとからついてくる
「挫折してもいいんですよ。むしろ、最後は挫折する覚悟を決め、私の意見でいい、と開き直りました。むしろその方が、縮こまってしまうより結果はよかったと思います」
恐怖心で仕事と相対してもいい結果は出ない。この声に配慮し、こういった声があるからここは削り……などと消極的な選択を繰り返すと、商品のよさも、自分のよさも消えてしまう。“こうすれば売れるよ!”と言ってくれる神様はどこにもいない。いるとするならば、自分の中にいるはずだ。
「結果、プレゼンをする日には高揚感がありましたよ。何を聞かれても答えられるようになっていたんです」
その後、商品が売れ、レシピ投稿サイト『クックパッド』に具のソースシリーズを使ったメニューが続々と投稿されていくのを見るうち、ようやく揺るぎない自信が付いてきた。
「私たちの商品を使って実際に生活が豊かになった、そんな方を想像するのはたまらなく楽しい瞬間でした。こんな体験をするまで仕事を続けて、ようやく、どんな大変なことでも向かっていけるようになりますよね」
今やキユーピーの商品開発部で将来を嘱望されている渡辺。その実績はたしかに、挫折の瞬間にどんな選択をしたか、その積み重ねの上にあった。(文中敬称略)
≪POINT≫
◆仕事に自信が持てない時は?
人に何か言われるたびに、意見がブレる時期があるのは誰でも同じ。自分にできる限りのことをし、徹底的に理論武装したら、あとは覚悟を決めるだけ。
「失敗を怖れている方が、むしろ失敗しますよね」(渡辺氏)
プレゼンなどの前に、かみしめておきたい一言だ。