弁当箱なのにご飯が炊ける。「えっ、ホント?」と驚かせる商品コンセプトだけでヒットを引き寄せたといえる。パチンコ業界向けに周辺機器や販促ツールなどを販売してきた東京都板橋区の琳聡堂が新規事業分野として開発し、2010年6月に発売した。弁当箱としての用途にとどまらず、単身者や小世帯などの家庭用としても好評であり、1年で5万台を突破する売れ行きとなっている。
根強い人気のある保温式弁当箱を思わせる小ぶりの炊飯ジャーに、ご飯を炊く時の蒸気でおかずを温める樹脂製のケースを釜の上部に装着できるようにしている。炊飯の容量は0.5合から1.4合までで、2人用としても十分使える。
炊飯器はマイコン式ではなくタイマーもない。ガチャンとスイッチを押し、サーモスタットで制御する方式だ。炊き上がると自動的に作動する保温機能は付いているものの、昔ながらのシンプルな機構によって定価を6980円と求めやすくした。
発売した当時には、自分で弁当をつくって職場に持参する「弁当男子」という流行語もタイミングよく生まれた。インターネットの商品サイトやテレビで取り上げられ、一気に注目されることになった。職場に「HOTデシュラン」と無洗米を置いておけば、おかずを持参するだけで、お昼は炊きたてご飯と温かいおかずの弁当ができる。
カレーなどのレトルトパックも、おかずケースに収めて温めることが可能だ。1人前のご飯を炊く場合の電気代は2円ほど。アットホームな職場だと、目をつぶってもらえる水準だろう。もっとも、開発者である社長の浅田浩司(39歳)によると、顧客からの反響や調査では弁当箱としての利用は「少数にとどまる」という。顧客は単身者や夫婦だけの高齢世帯などが多く、一般家庭では帰宅が遅くなる夫に炊きたてのご飯を食べてもらうための利用も少なくないことが分かった。
開発のきっかけは
中国で見つけた小型炊飯器
浅田がこの商品を開発するきっかけを摑んだのは、09年の秋に商材探しのため中国に出張した時だった。電器店で日本では見かけない小ぶりの炊飯器を見つけ、しばし見入った。0.5合から炊けるもので、最小でも3合炊きが主流の日本製品にはない新鮮さを感じた。
買い求め、1合で炊いてみると普通ランクのコメでも予想外においしく炊けた。3合炊きや5合炊きの高価な炊飯器で1合など少量を炊く場合より、むしろおいしいとも感じた。高齢化が進む日本では、こうした小容量型にもニーズはあると踏んだ。
しかし、小容量だけが売りの炊飯器ではビジネスにならないことも分かっていた。ましてや「パチンコ関連の会社がつくった炊飯器なんて、自分でも買わない」と思った。何かの価値を加えることだと、今度は日本製炊飯器の機能を片っ端から調査してみた。
そこで浅田が注目したのが、「蒸す」機能だった。釜に水を入れ、網状の専用トレーで肉まんやシュウマイなどを蒸すのである。そこから浅田は、わざわざ水を入れるのでなく、炊飯時の蒸気を利用して何かできないかと考えた。小型炊飯器が保温式の弁当箱に似ていたこともあって、「では、おかずを入れるケースをつくってみよう」という発想に至った。