「反Amazon」は現代の「スワデーシ運動」になるのか
ベゾス氏もインド政府も無視できない存在、それがインド全土に数千万存在するというインドの零細小売業者なのだ。
インドに来れば誰もが目にする町の小さな小売屋さん。スナック菓子やジュースにちょっとした食品、髭剃りや洗剤などの日用品はもちろん最近では小さな電気製品まで扱う店が出てきた。コンビニエンスストアがまだ一般的でないインドにおいて、庶民の生活を支えるそのような小さな小売店を現地の言葉で「キラナ」という。
このキラナは時には半畳ほどの狭いスペースでインド人の不愛想な店主が一日商売をしている。そういった小規模な小売業者がインドには無数に存在する。パソコンも持たず携帯電話も旧式のタイプしか持たない彼らが、Amazonが提供するプラットフォームを利用してEコマースに参入する可能性は低いだろう。
AmazonやFlipkartに慣れ親しんだ都市部の若い世代からは「時代の変化に対応できない過去の遺物」だと言われることもあるこのキラナ。しかしそんな彼らが持つものもまた一票であり、実際数が多い彼らは選挙においては大きな影響力を発揮する。鈍化する経済成長への起爆剤として外国からの投資が欲しいと思っているインド政府であっても、この目の前に票をちらつかせる一大業界団体の意向を無視するわけにはいかいのだ。
およそ100年前、イギリスの支配下にあった当時のインドでは「スワデーシ運動」という運動が全土を席捲した。スワデーシとは「我が国」という意味である。
当時のインドでは産業革命に成功したイギリスから輸入された大量の綿製品により、糸車を使って作られるインドの伝統的な綿製品は大打撃を受けていた。そこで外国の大資本による経済侵略を防ぎ、インドの伝統や文化、そして産業を守ろうという主張が徐々に全土で力をつけてきた。これがスワデーシ運動である。
この動きが反英、引いては独立運動にまで発展することを恐れたイギリスは、従来のインドへの輸出という形ではなく、インドでの生産という形に切り替えることでインドでの雇用に貢献していることをアピールし事態の鎮静化を図ることとなった。
今回のCAITの動きは、100年前のこの「スワデーシ運動」と重なる部分がある。当時のインドの知識層は糸車による綿製品など時代遅れであることは理解していたが、運動の指導者たちはこの問題に愛国心という要素を加えることで、その運動を一定の成功にまで導くことができた。今回の反Amazonの動きでも、CAITはキラナをはじめとする小規模小売業の必要性を訴えるというよりは、外資の侵略という「わかりやすい構図」に持ち込むことで味方を増やそうとするだろう。
昨年の自動車不況と昨今のイラン情勢による原油価格の上昇の恐れにより大きく経済が失速しているインドにおいて、支持率回復のためにもともとヒンドゥー至上主義と言われるモディ政権が、支持率回復のためにこの「現代のスワデーシ運動」を利用しないという保証がないわけではない。それはインドに対する外国投資への冷や水になるため、おそらく政府もそのよう政策はとらないであろうが、今後もAmazonなどのインドにおける「外資のジャイアント」の動向からは目が離せない状況が続きそうだ。
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