2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2020年2月8日

白人至上主義者(組織)を巡る動向

 そして、「外国人戦闘員」においても、我々はもう1つの外国人戦闘員を巡る情勢にも焦点を置くべきだろう。それは、グローバルに展開されつつある白人至上主義者(組織)を巡る動向だ。去年も、3月のニュージーランド・クライストチャーチモスク銃乱射テロ事件、8月の米国・テキサス州エルパソ銃乱射テロ事件、10月のドイツ・ハレユダヤ教施設襲撃テロ事件など、白人至上主義者によるテロ事件が断続的に発生し、その脅威は現在も続いている。欧米では、イスラム過激派関連のテロ事件が減る一方、こちらのテロ事件は増加傾向にある。

 Soufan Groupは昨年9月、このグローバルに展開されつつある暴力的白人至上主義に関する論文を公表した。それによると、2014年のウクライナ危機以降、2019年6月までに外国人戦闘員として戦闘や軍事訓練のためウクライナにやってきた外国人は、世界55か国あまりから1万7000人を超えるという。そのうちロシアが最大で1万5000人、ベラルーシが800人、ジョージアが150人、セルビアが106人と近隣諸国が多くを占める一方、ドイツが150人、フランスが65人、イタリアが55人など西欧諸国からも参加者がみられる。

 また、北米から49人、南米から11人、オセアニアから10人など他地域からも集まったが、東アジアや東南アジア、中東・アフリカからは確認されていない。Soufan Groupは、イスラム過激派「イスラム国(IS)」の時に数万人の外国人戦闘員がISに流入したように、SNSやネットで情報を知った白人至上主義者たちが世界中から集まり、暴力的白人至上主義者のグローバルな連携ができていると指摘した。

 そして、昨年以降の情勢はこれを示唆するものとなっている。2019年3月15日、反イスラム主義を掲げる白人至上主義者の男が、クライストチャーチ市内にあるイスラム教モスク2カ所を相次いで襲撃し、銃を無差別に乱射してイスラム教徒ら50人以上を殺害した。犠牲者の中には、パキスタンやアフガニスタン、マレーシア、バングラデシュやサウジアラビアなど多くの外国人も含まれた。犯人は、オーストラリア人のブランタン・タラント容疑者で、自らの犯行の様子をフェイスブックでライブ配信し、世界各地の白人至上主義者たちの関心を引こうとしていた。

 同容疑者は、2017年4月から5月にかけてフランスとスペインなど欧州を訪れ、そこで“白人の国が移民・難民に侵略されている”と危機感を抱いたことが犯行の動機だったとしている。タラント容疑者は、事件直前に発信したマニフェスト「Great Replacement(偉大なる交代)」の中で、強い反イスラム、反移民感情を示し、2011年7月のノルウェー・オスロ銃乱射事件(77人死亡)の実行犯アンシュネ・ブレイビク容疑者から強い影響を受けたと明らかにし、移民・難民へ寛容なドイツのメルケル首相やトルコのエルドアン大統領、ロンドンのサディク・カーン市長を非難した。また、厳しい移民政策を貫くトランプ大統領を、「白人至上主義のシンボル(Symbol of white supremacy)」と称賛した。

 そして、タラント容疑者は以前にウクライナを訪れ、そこで白人至上主義組織「アゾフ・バタリオン(Azov Battalion)」の軍事訓練に参加したとみられる。アゾフ・バタリオンはウクライナ危機の2014年に誕生し、そこで軍事訓練を受けるため、米国や英国、イタリアやドイツ、スウェーデンやノルウェー、ブラジルなどから支持者たちが集結し、米国や英国の白人至上主義組織からも一部メンバーが加わったとされる。 

 これに続くように、2019年8月、メキシコ国境に近いテキサス州エルパソで、ヒスパニック系移民に敵意を抱く白人至上主義の男による銃乱射事件が発生し、メキシコ人8人を含む22人が死亡した。男はエルパソから約1000キロも離れたダラス近郊に住む20代のパトリック・クルシウス容疑者で、同容疑者も事件直前に自身のマニフェストをネット上に投稿した。クルシウス容疑者もヒスパニック系移民の人口増加を“テキサスへの侵略“と動機付け、タラント容疑者を賞賛した。また、その約1週間後、今度はオスロ近郊にあるモスクを白人のフィリップ・マンスハウス容疑者が銃を持って襲撃するテロ事件があった。マンスハウス容疑者も事前にマニフェストを投稿し、タラント容疑者から指名されて犯行に及んだと明らかし(真相は不明)、エルパソのクルシウス容疑者を賞賛した。

 このように、近年の白人至上主義テロにおいては、イスラム教徒やユダヤ教徒、ヒスパニックなどの移民・難民の増加を侵略と認識し、自らの行為を自己正当化する傾向が見られる。また、アルカイダやISのように、SNSやインターネットなどをフルに活用して、自らの主義・主張を大々的にアピールし、同調者たちとの連帯感を深め、さらなる攻撃を呼び掛けている。こういった傾向からは、サイバー空間を媒介としてネットワークが拡散し、国境を越えた白人至上主義ネットワークというものが想像できる。しかも、イスラム過激派と比べると、こういったネットワークへの世界の監視は驚くほど手薄だ。国際社会は、イスラム過激派への対策と同じように、この脅威にも対応することが望まれる。

  
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