ニューヨークを皮切りに〝聖地〟へ
アメリカから最初に引き合いが来たのは98年。輸入代理店からのオファーであり、輸出を始めたのは翌99年から。
「アメリカで売れるとは想像しなかった。日本にもクラフトビールがあるんだ、という珍しさが、受けた理由だと思います。日本製だから良質なビールなどと思っているアメリカ人は、まずいないでしょう」と木内は分析する。
既にネット社会が到来していたため、頻繁に太平洋を渡る必要もなかった。
キリンビールと業務・資本提携するブルックリン・ブルワリーも、最初はニューヨーク地域を担当する代理店として常陸野ネストビールを扱う。99年当時、ブルックリンはメーカーというより問屋の色彩が強かった。創業者であるスティーブ・ヒンディと木内とは知り合いだそうだ(現在は別の代理店が同地域を担当している)。
ニューヨークを皮切りに、西海岸、さらにクラフトビールの”聖地”とされるポートランドなどにも、販路は拡大されていく。現在までに、輸入総代理店の元に全州に代理店をもっている。
99年当初、輸出するアイテムは5、6銘柄だったが、現在は13銘柄に増えている。
常陸野ネストビールのうちアメリカで一番人気は「ホワイトエール」。ヨーロッパ産小麦だけではなく、茨城産の小麦を加えている。
2位は「だいだいエール」。原料の一つに、茨城県石岡市で収穫される「福来(ふくれ)みかん」を使用したフルーツタイプ。爽やかな香りが特徴である。
3位は「レッドライスエール」。古代米「朝紫」を使用して仕込んだ淡い紅色。フルーティさと酸味のバランスが特徴だ。
こうした人気の度合いは、市場ニーズだけではなく現地代理店の販売政策によっても変化する。常陸野ネストビールは、スーパーなどの量販では330ミリリットル瓶がおおむね4ドルで、レストラン・パブなどの料飲では、一杯が約8ドルで販売されている。
「若い人から若者まで、さらには富裕層に限らず、アメリカではクラフトビールを多くの人が楽しんでいます」と木内は話す。
2000年代に入ると、イギリス、フランス、北欧などのヨーロッパ。さらに、韓国やタイ、フィリピンなどアジア。オーストラリアとニュージーランドにも輸出を始めていった。