自分の病気を勝手に治すな!?
アイデアを出し合い、練習していく過程で、仲間とのつながりを実感していくところもポイントだ。一般的に「療法」と呼ばれるものとの決定的な違いは、「仲間」がいること。どうやら、アイデアを出し合う過程で「連帯」していくというところが大きな特徴のようだ。
「べてるの家には『三度の飯よりミーティング』『弱さを絆に』などちょっとユニークなたくさんの理念がありますが、そのなかに、『勝手に治すな自分の病気』というのがあるんです。勝手に治っていくのではなく、みんなで回復していくという時の、その回復には、勝手に治ったのとは違う強さのようなものがあります」(向谷地氏)
言葉を取り戻せ! 語り始めた当事者たち
さて、当事者研究には、仲間とのつながりを実感することと、もう一つの重要な側面がある。それは、研究の過程で「言葉」を獲得、もしくは取り戻すことだ。
ホワイトボードに、困っていることを言葉で書き出すうちに、症状を改めて見直し、自分の思考のクセが分かってきたり、対処方法を考えられるようになる。すなわち、病気や症状の外在化である。言葉として外在化したうえで、仲間と一緒にそれを眺めて対処法を考えるのである。
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従来の精神科領域の「治療」は、病気や障害の当事者からこのようにじっくりと話を聞く仕組みとは言えないだろう。また社会も、長らく彼らの叫びを聞こうとしてこなかった。
当事者研究に参加をしていた人たちは口々にこう言う。
「寂しいとか孤独という言葉を知らなかった」
「辛いという言葉が自分の辞書から消されていた。でも書き加えた」
「助けてと言えなかった。多少言葉を覚えてきた時に最初に言えたのが『ぼく病気なんです』だった」
当事者研究は「言葉の宝庫」
べてるの家の当時者研究では、本人たちが自分のことを語った時に使った言葉が蓄積されている。言葉の宝庫だ。一部を紹介すると、「弱さの情報公開」「苦労のプロフィール」「症状を見つめるのではなく眺める」「前向きな無力」・・・などなど、これらが当事者研究の「理念」となってどんどん増え、変化している。
当事者研究を仲間と繰り返すうちに、周りの仲間たちもその人を理解していく。「あっちへ行け」と言われたら「寂しいっていうことだな」と分かるようになる。しかし、一般の人たちにはそれでは伝わらない。だから仲間たちが言葉を変える手伝いをしていくのだ。
ここでは、悩みを抱えている人は、その分野の「専門家」だし、自分の振り返り自体が「研究」で、問題行動は「自分助け」や「天才的素質」となる。そして、それらの言葉を用いて研究をしていく中で、また新しい言葉が生み出され、貯金されていくというサイクルができている。
韓国、アメリカへも遠征する
べてるの家のメンバーたち
当事者研究実践講座では、当事者研究の“ライブ”をとおして、問題を抱えた人が言葉を獲得して(取り戻して)いく方法が披露され、当事者でなくても、援助していく人たちはまず、問題を抱えた人の言葉や行動の表面に惑わされず、その奥底にある本当の心の叫びをとらえることの大切さを学ぶこともできる。