Wedge REPORT

2020年3月16日

»著者プロフィール
閉じる

出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

愛媛との出会い

 19年春、多くのブータン人留学生が日本語学校の卒業後に母国へと帰国した。借金を抱えたまま、まさに失意の帰国である。そんな中、運良く愛媛で就職先が見つかったのが、ロビン君たちだった。

ロビン君

 正午過ぎーー。ロビン君は職場の隣の家に戻り、昼食の準備に取り掛かる。同僚のブータン人、カーラ君(27歳)と一緒に囲む食卓には、決まって味噌汁が並ぶ。具は自らつくった豆腐である。

 「愛媛に来て体重が5キロも増えたんですよ(笑)」

 家の前に立つと、周囲の山々が遠くに見渡せる。その間に田畑や集落が点在する雰囲気は、故郷のブータンを思わせる。そんなことも、ロビン君が愛媛を気に入った理由だ。そして何より、日本語学校当時には全くなかった、日本人と触れ合う機会がここにはある。

 ロビン君には将来、ブータンに戻って農業で起業する夢がある。会社は豆腐の原料となる大豆に加え、ブドウやコメの生産も手がけている。その生産から加工製品の製造や販売、流通に至るまで、農業ビジネスの過程が学べるのだ。会社が小規模であるぶん、その経験は起業にはより役立つに違いない。

 「日本の農業は、ブータンよりもすごく進んでいて勉強になります。個人的には養鶏に関心があります。ブータンでやれば、きっと成功できると考えています」

 ロビン君と一緒に就職したカーラ君は、ブータンにコメの生産技術を持ち帰えろうとしている。

 「実家ではコメをつくっていますが、肥料や機械がないため、同じ面積でも採れる量が日本よりもずっと少ない。日本の技術があれば、ブータンの農業は変わりますよ」

 「外国人労働者」には、日本人の嫌がる低賃金・重労働の担い手というイメージがつきまとう。しかし、愛媛では「地域おこし」と「人材育成」を目指し、ブータン人との新たな関係が築かれつつある。

 日本への留学で不幸のどん底を味わった若者たちは、いかにして希望を取り戻し、地元でどのように受け入れられているのか。次回以降、「愛媛モデル」の可能性に迫ってみたい。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る