2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2020年3月18日

「命のビザ」

「愛媛では水害も影響し、農業の人材不足が深刻です。留学生たちが就職できれば、被災地の支援にもつながります」

 菅さんの依頼に応えたのが、西予市で青ネギなどを生産・販売する「百姓百品グループ」だった。同社は多くの障がい者を雇用する一方で、高齢者や女性農家のサポートにも尽力している。同社などの尽力によって、ブータン人の採用に手を上げる企業は集まった。問題は、就労ビザの発給を入管当局が認めるかどうかだった。

 留学生が就職時に取得する在留資格「技術・人文知識・国際業務」(技人国ビザ)は、母国の「大卒」の学歴があれば発給対象となる。ただし、技人国ビザはホワイトカラーの仕事に発給されるのが原則だ。農業関連の法人への就職は、正社員採用であっても対象外とみなされかねなかった。

 とはいえ、愛媛での就職を望んでいたブータン人は皆、母国でエリート大学を卒業し、英語も堪能な「高度人材」である。農業法人の海外進出や、ブータンとのコネクションづくりも担える。豪雨で被災した地域の復興にも貢献してくれる。さらには人材育成にもなるのだから、愛媛とブータンの双方にとってメリットが大きい。

 そうした事情を入管当局も理解してか、幸い就労ビザは発給された。留学生たちとっては、まさに「命のビザ」が得られたのだ。

 菅さんが留学生の救済活動を始めてから丸2年が経つ。その間には、ブータンを訪れてロテ・ツェリン首相と面会し、日本から帰国した留学生の借金問題を解決してくれるよう直訴したこともある。すべてボランティアの立場を貫いてのことだ。

 愛媛のブータン人たちは、こう口を揃える。

 「ユミコがいなければ、私たちはブータンへ帰国していました。こうして愛媛で働けるのも、すべて彼女のおかげです」

 留学生たちが日本で食い物になった実態は、ブータン国内も大きく報じられた。結果、「日本」に対するイメージも、現地で大きく傷ついた。それが菅さん、そして愛媛の経営者たちの努力によって、着実に挽回されようとしている。

  
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