2024年4月26日(金)

前向きに読み解く経済の裏側

2020年3月23日

不況は自殺者を増やす

 自殺者数の推移を見ると、金融危機時に急増してから高水準が続き、リーマン・ショック後の景気回復局面で減少トレンドにはいっています。自殺の原因は経済だけではありませんが、不況による倒産等々が自殺を増やす原因の一つであることは疑いないでしょう。

 そうだとすると、今次自粛の行き過ぎが不況を招き、自殺者を増やしてしまうリスクは当然に意識されるべきです。今回は、影響が行楽関連等の狭い範囲に集中的に生じかねず、その範囲内での自殺が急増しかねないことが心配です。 

 自粛をしなかった場合に新型コロナで死ぬ人数と、自粛をしたことによる不況で自殺をした人数のどちらが多いのか、という話です。

 問題は、実験ができないことです。理科系であれば、実験室の中で新型コロナを100回流行させて、50回は自粛をし、50回は自粛をせずに結果の違いを見る、ということができるわけですが、実際にはそんな実験は不可能ですから。

 「人命は地球より重いから、景気を犠牲にしても新型コロナによる死者を減らすのだ」というのはスローガンとしては成立しても、実際にそれが死者を減らすことになるのか否か、難しい決断ですね。

 政府が辛いのは、自粛をやめれば新型コロナによる死者が増え、それを批判されるでしょうし、自粛を続けて自殺者が増えればそれを批判されるでしょう。

 問題なのは、「自粛していなければ新型コロナで大勢死んでいたはずなのを防いだのだから、これくらいの自殺者数で済んだは成功だったのだ」とは言えないことです。「自殺者に対する配慮が足りない」といった倫理的な話もさることながら、「自粛していなくても新型コロナで死んだ人が増えたはずがない」と言われると反論が難しいからです。

 政策決定者は、辛いと思いますが、是非とも英知を結集して正しいと思われる方向に国民を導いていただければと思います。

 余談ですが、これは突き詰めると世代間の対立になるのかもしれませんね。新型コロナで死亡するのは高齢者が主でしょうし、不況で自殺するのは現役世代が重でしょうから。

 その面からは、シルバー民主主義が自粛を支持する、ということはあり得るのかもしれませんね。まあ、世代間の対立ということが政治に意識されない可能性の方が強そうですが。

緊急の課題は倒産の防止

 「自粛で景気が悪化するなら、財政赤字など気にせずに景気対策を打てば良い」という考え方もあるでしょうが、現時点では有効な景気対策が見当たらないのです。

 所得税や消費税を減税したところで、人々が消費を増やすとも思われませんし、設備投資減税が設備投資を誘発するとも思われません。公共投資は推進すべきだと思いますが、建設労働者の数に限りがあることを考えると、効果は限定的でしょう。

 そうであれば、景気が悪くなっても倒産が増えないように、中小企業の資金繰りを支援することが緊急の課題となるでしょう。すでに政府は様々な倒産防止策を策定しているようですが、さらに拡充していただくことと、それを周知徹底して必要な人が必要な支援を要請できるようにすることをお願いしたいと思います。

 「資金繰りの支援をすると、万年赤字のゾンビ企業が生き延びてしまう」という人もいるでしょうが、ゾンビ企業であっても緊急事態には雇用を守ってくれる貴重な存在なのです。ゾンビ企業の淘汰は、景気が回復して世の中が再び労働力不足になった時に行えば良いので、今はとにかく支援しましょう。

 自営業者等の所得保障も重要です。売り上げが前年比で減少している自営業者は、幅広に政府が所得保障をする、といった対策も望まれます。給付が望ましいですが、最低でも「無担保無保証の融資」は是非お願いしたい所です。

 末筆ながら、新型コロナで亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、闘病中の方の一刻も早いご回復をお祈りし、併せて景気悪化が自殺者等の犠牲者を出さないことをお祈り致します

 本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係ありません。

  
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