インド経済を読む

2020年3月31日

»著者プロフィール
閉じる

野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

国民に彼のリーダーシップを印象づけた

 最後がモディ政権の足元とインド経済だ。

 このコラムで去年から寄稿し続けているように、目下インド経済は調子が悪い。特に自動車産業の不調が取り沙汰されるが、海外であまり報道されないのがインドにおける金融不安だ。銀行、ノンバンクともに金融機関の不良債権問題はこの2~3年の間インドではずっと議論されており、政府はこの不安を取り除くための定期的に「インドの金融は安全で強固」と繰り返しアナウンスを続けてきた。

 しかし、コロナウィルスの騒動で全く話題にはならないが、3月6日インドで5位の大手銀行イエス銀行が預金残高の急減からとうとう預金引き出し額の制限を始めたのだ。イエス銀行は従来より経営の健全性が不安心されていたため、中央銀行にあたるインド準備銀行主導で経営再建を図っていたのだが、そのインド準備銀行からの要請を受けてのひと月で5万ルピー(日本円で7万5000円程度)までという預金引き出し制限の設置は、金融業界へのさらなる不振を生み出し翌日から金融関連の株式は急落した。

 今後は政府、インド準備銀行、そして政府系のSBI銀行(ステイトバンクオブインディア)が一体となってイエス銀行の再建を図ることが発表されたが、口座を持つ人の間では衝撃が走り翌日の同銀行のATMや窓口には長蛇の列ができた。

 政権就任当初より様々な経済政策を打ち出し、強い経済成長をアピールし続けてきたモディ政権。だが2019年以降はその成果ともいえる経済成長率が落ち込み続けていることに頭を悩ませている。そして低迷する自動車産業に加え、もう一つの爆弾ともいえる金融問題が膨らむこの状況では現在の高い支持率(68%)を維持し続けることは難しいだろう。

 今回のモディの国民向けメッセージを見て、私は「危機を政権支持につなげることが上手い」という印象を受けた。ひと昔前の日本の小泉首相のようなイメージだ。急転直下ともいえるこの決断は国民に彼のリーダーシップを印象づけた。

 彼は力強く、そして簡単なフレーズで国民の団結を呼びかけ、そしてこの現在もコロナウィルスと戦っている医療従事者、その他生活の基幹産業を支える労働者への感謝の気持ちを表明した。同時に国民にも拍手や金属音で、22日の夜に一斉にその感謝の意を表明しようと呼びかけた。

 実際22日の夕方5時には町中で、拍手、金属音、そして時には歌まで聞こえてインド全土は一体感に包まれた。それは外国人の私にも非常に感動的で感傷的な時間に感じられた。海外では違反者を警察が棒で叩いたりスクワットさせる動画が面白可笑しく報道されたりもしているが、ロックダウンももう4日目になる街にも特に大きな混乱は生じていないように見える。一見強硬で突然ともいえるこの措置に対して国民からの不満の声も出ていないのが現状なのだ。

 今回のコロナ問題をこの急転直下のロックダウンで乗り越えることができたら、自動産業や金融不安からの経済への悪影響があったとしても、彼はその思惑通りまたその高い支持率をキープし続けるだろう。強かなモディの長期政権はまだまだ続きそうだ。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る