卓袱台返しのネタニヤフ首相
モサドが国難に全力で当たっているのに対し、連立政権を目指す政局は混乱から脱し切れていない。イスラエルでは、この1年間で3回の総選挙が行われた。昨年の2回の選挙では、ネタニヤフ首相率いる右派「リクード」、ガンツ元統合参謀長が代表の野党「青と白」とも過半数(61議席)を獲得できず、さらに連立工作にも失敗、政権を発足させることができなかった。
3月2日の3回目の選挙でも、両者は過半数に届かなかったが、政局は大きく動いた。大統領から組閣を任されたガンツ氏がそれまで拒否してきた「リクード」との連立に舵を切ったからだ。コロナ禍に対応するため「非常事態内閣」を発足させるという理由だった。同氏は3月末、「リクード」の賛成票を得て国会議長に選出され、ネタニヤフ首相との連立協議を開始した。こうしたガンツ氏の“変節に「青と白」は分裂した。
連立協議は1年半ずつの交代でネタニヤフ、ガンツ両氏が首相を務めることを軸に進み、4月6日の時点では両者が合意文書に署名するところにまで煮詰まった。しかし、地元紙などによると、首相は土壇場で卓袱台返しし、合意文書への調印を拒んだ。司法相の人事をめぐって対立が解けなかったとされる。首相は汚職容疑で刑事被告人の立場にあり、5月から裁判が始まる予定で、裁判を自分に有利に運ぶため司法相人事にこだわったと見られている。
ネタニヤフ首相が強気に転じたのは、ガンツ氏の「青と白」が分裂してもはや同氏が脅威ではなくなったことが背景にある。最新の世論調査によると、今選挙が実施された場合、「リクード」が40議席を獲得するのに対し、ガンツ氏の勢力は19議席にとどまるという。またコロナ危機という非常事態で首相の進める対応措置が国民に大方支持されているという自信もある。
ガンツ氏の組閣猶予期限は13日で切れ、いったん15日まで延長されたが、両氏が合意することはできなかった。このため政権発足の作業は議会に移り、議会が指名した人物が2週間以内に組閣できなければ、解散・総選挙になる運びだ。イスラエルでは4度目の総選挙に突入する可能性が高まったとの見方が有力だ。政治の混迷に、「モサドを見習え」という国民の声が聞こえてきそうだ。
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