2024年2月22日(木)

補講 北朝鮮入門

2020年4月21日

4月になって激減した「マスクをつけろ」報道

 1月下旬から外国人の入国を禁止した時は、迅速で極端な対応が北朝鮮らしいと嘲笑する傾向もあったが、3月になると「鎖国」は世界的な動きとなった。そして北朝鮮ではむしろ、3月下旬になると少しばかり余裕が出てきた模様である。4月に入ってからは、平壌駐在の外交官に対する禁足令も解除された。「緊張を緩めるな」と言いつつも、マスク着用を呼びかける『労働新聞』の記事が激減したことも興味深い。

 4月11日には、党中央委員会政治局会議が開催された。金正恩委員長を含め、出席者はいずれもマスクを着用していないばかりか、出席者間で物理的な距離を置いているようにも見えない。ただ、例年この時期に行われる党中央委員会全員会議や政治局拡大会議に比べ、会議の規模は小さいものとなった。最初の議題も「世界的な大流行伝染病に対処してわが人民の生命安全を保護するための国家的対策をさらに徹底して立てることについて」であり、新型コロナが依然として深刻な脅威だと捉えられていることは間違いない。

 翌12日には、国会にあたる最高人民会議の第14期第3回会議が開催された。予告より2日遅れの開催となったが、理由については一切明らかにされていない。代議員687人のほとんどが出席したが、やはり誰もマスクを着用していなかった。

 医療体制が脆弱な北朝鮮でウイルスが蔓延していたとすれば、全国から代表が集まる会議の開催はあまりに危険である。感染者が依然として「ゼロ」であることを国内外にアピールしているようだが、ウイルスの抑え込みに自信もあるのだろうか。

 2000年代以降の北朝鮮は一般に考えられているほど情報鎖国ではない。海外の情報が国内に流入することに対しては警戒心が強いものの、中朝国境地帯に持ち込まれた中国の携帯電話などを通じて、北朝鮮社会で何が起きているのか外部に漏れてくる時代だ。感染爆発によって医療崩壊を起こしたり、病院でみてもらえない感染者が市中にあふれたりすれば、その情報を外部に隠し通すことは難しい。そうであるならば、感染者ゼロとは考えづらいものの、少なくとも感染爆発という状態には至っていないということなのだろうか。

 金正恩委員長は3月17日、平壌中心部に建設される「平壌総合病院」の起工式に出席。久しぶりに公開された長文演説では、「自国の首都にさえまともに整備された現代的な医療保健施設が無いことを痛切に非難」しつつ、「人民大衆第一主義」を掲げて、党創建75年となる10月10日までに完工させるよう発破をかけた。

 金正恩時代に入り、柳京口腔病院や柳京眼科総合病院といった専門病院はオープンしているが、大型の総合病院は、1980年代に建てられた平壌産院や金萬有病院などに限られている。4月の最高人民会議でも最優先事業に平壌総合病院の建設が挙げられた一方、他の国家級プロジェクトは後回しにせざるをえない状況だ。

 金正恩委員長は前述のように観光事業を重視しており、昨年末に国家級の大型スパリゾート「陽徳温泉」が鳴り物入りでオープンした。域内の案内板に英語と中国語も併記するなど外貨獲得へ向けて並々ならぬ意欲を見せるとともに、金正恩時代になって増えた国内の富裕層にもカネを落とさせることを狙っていたが、こうした路線もしばらくは棚上げだ。4月15日に完工予定だった元山葛麻海岸観光地区も、今回で4回目の工期延長に追い込まれた。

 米朝対話の停滞への対処という難題を抱えていたところに、新型コロナという人類共通の難敵に見舞われた北朝鮮。金正恩委員長は、父の死に伴って最高指導者となって以来で最大の正念場を迎えているのかもしれない。

  
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