2024年12月22日(日)

補講 北朝鮮入門

2020年4月21日

 新型コロナウイルスが世界中に広がっているが、北朝鮮は国営メディアを通じて一貫してウイルスは「わが国に入ってきていない」と主張している。だが、ここまで世界中に広がった状況で感染者ゼロというのは、にわかに信じがたい。実際のところ、どうなのか。すべて国営である北朝鮮メディアの報道を通じて、北朝鮮が新型コロナとどう向き合っているのかを見てみたい。

金日成誕生日(4月15日)はコロナの影響で厳戒態勢のもとで実施された(AP/アフロ)

 北朝鮮は今回の事態を大変重く見ており、国営メディアは防疫事業について「国家の存亡に関わる」という過激な表現まで使ってきた。北朝鮮が外国人の入国を全面的に禁じたのは1月22日で、他国に比べて格段に早かった。北朝鮮の体制だからこそできたことだが、危機管理という観点に限って言えばよいことなのかもしれない。

 2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、2014年のエボラ出血熱、2015年の中東呼吸器症候群(MERS)流行の際にも同じような措置が取られてきたが、今回はさらに厳格だ。2月以降、380人の外国人を含む1万人程度が40日間隔離されたことが発表された。 

武漢の発症報道から連日啓発、世界に先駆け「鎖国」強行も

 朝鮮中央テレビは1月21日午後8時のニュースで、武漢市で新型肺炎が発生して死者が出ていることを報道。北朝鮮当局が、世界保健機関(WHO)と協力して感染を防ぐための全国家的活動をしていると伝えた。中国の専門家が人から人への感染を確認したと表明し、習近平国家主席が感染抑止の「重要指示」を出した翌日のことだ。日本でも感染者が発生したことを伝える記事を掲載した1月24日以降は、『労働新聞』が「コロナ」に触れなかった日はなく、中国など周辺各国の感染状況や対策方法についても詳しく報じるようになった。WHOの発表もそのまま伝えるなど、これまでになく客観的な報道ぶりは驚くほどだ。

 1月26日には朝鮮中央通信が、武漢を訪問してきた1人の感染が韓国で24日に確認され、4人に発熱とせきの症状が出て隔離されているとして、「南朝鮮(韓国)で新型コロナウイルスの感染者が発生して懸念をかき立てている」と報じた。これは、韓国で発見された2例目の感染者だった。

 2月1日の『労働新聞』は「新型コロナウイルス感染症を防ぐための事業を力強く展開しよう」と題する社説を掲載。「国境と地上、海上、空中などすべての空間で新型コロナウイルスが入り得る通路を先制的に完全に遮断封鎖しなくてはならない」と訴えた。国民に「せき、くしゃみをする時には必ずハンカチや手で口と鼻をふさぎ、外出時にはマスク着用を習慣にし、手洗いを頻繁に」と呼びかけるとともに、医療従事者に対しても感染者を見つけたら徹底的に隔離するよう求めた。

 そして2月初めまでに中国、ロシアと結ぶ国際列車と航空便の運行が停止された。その他の国との路線はないから、一時的とはいえ事実上の鎖国状態である。さらに、北朝鮮国内でも中国との国境に近い地域への出張や旅行の制限、外国人との接触の「完全遮断」まで指示された。2月8日の共同通信によると、平壌駐在の外交官たちは居住区域から出ることを禁じられ、北朝鮮外務省に提出する外交書簡も手渡しではなく指定の箱に入れるよう求められたという。

 共同通信は1月31日には平壌発の記事で、「北京や東京と比べると少ないものの(中略)若い女性や子どもがマスクを着けていた」と報じた。『労働新聞』も2月5日、各地の被服工場で設備をフル稼働させて連日、数万個のマスクを生産中だと報道。同紙は22日、マスク着用が既に義務化されていることを明らかにした。北朝鮮メディアによると、マスク着用には「例外となる特殊など絶対にあり得ない」というのである。マスクを着けていない唯一の人物が金正恩委員長であった。


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