2024年2月21日(水)

補講 北朝鮮入門

2020年4月21日

食堂での会食を禁止し、銀行では紙幣の消毒まで

 日本でも「自粛疲れ」が言われたりするが、北朝鮮にも似たような現象があったのかもしれない。『労働新聞』は2月16日、「緊張を緩めることなく衛生防疫事業の強度を引き続き高めよう」という記事を掲載。「あらゆる対策が国家的な事業として迅速に行われた」と主張しつつ、「通りや公共の場所でマスクをしない一部の人々の誤った行動」を批判した。

 緊張感の高まりを感じさせるのが、食堂での会食やマスクなしでの地下鉄やバスなどの利用を禁止したことだ。

 2月26日の『労働新聞』は、食堂での会食を「問題ない」と考える一部の国民がいることを問題視。「人が集まって食事しながら会話すること自体が主な感染経路になる」と指摘し、「多くの人が食堂など公共の場に集まることを厳しく禁止すべきだ」と強調した。3月19日の同紙はさらに、マスクをしていない客に公共交通機関を利用させてはならず、長距離バスや鉄道の場合は37度以上の熱がある客を乗せることを禁じるという指示が出ていることを明らかにした。27日の同紙によると、銀行では感染予防のために現金の消毒まで行われているという。

 北朝鮮が神経をとがらせる背景には、医療体制が脆弱であることに加え、米朝関係の停滞によって経済制裁の緩和にめどがつかず、「自力更生、自給自足」をスローガンとして掲げざるをえないという厳しい状況がある。昨年末に開催された朝鮮労働党中央委員会第7期第5回全員会議においては、金正恩委員長が「経済建設に有利な対外的環境が切実に必要なことは事実」などと率直に語ったほどだ。

 北朝鮮は国連安保理の制裁対象に入っていない観光事業での外貨獲得を目論んでいるが、年間30万人規模まで拡大した中国人観光客はゼロとなった。4月に平壌で予定されていた「万景台賞国際マラソン」も即時に中止が発表された。もともと寒さの厳しい冬には観光客が多くないものの、事態が長期化すれば影響は大きくなる。

金日成、金正日の誕生日行事までキャンセル

 北朝鮮の危機感を示すのは、金正日誕生日(2月16日)を祝う大イベント「慶祝中央報告大会」も開催されなかったことだ。金日成、金正日、金正恩という3代の指導者への忠誠心が絶対視される北朝鮮においては、極めて異例の事態である。金正恩委員長の動静報道も減少し、これも防疫事業の一環と考えられた。金日成誕生日(4月15日)に際しては、金日成・金正日の遺体が安置されている「民族の最高聖地」、錦繍山太陽宮殿への金正恩委員長の参拝も行われなかった。金日成時代から毎年開催されてきた「4月の春・親善芸術祝典」や「金日成花展示会」も中止である。

 ただ北朝鮮は一方で、徹底的な防疫事業を「われわれ式社会主義のイメージを輝かすための重大な政治的事業」だとも位置付けてきた。迅速な決断力と実行力によって「国家制度の優越性と威力が今一度、全世界に明確に誇示される」機会になるそうだ。「党の賢明な領導」を宣伝する好機だというのは、いかにも北朝鮮らしい発想だろう。

 実際に、2月28日には党中央委員会政治局拡大会議が開催され、金正恩委員長が「取り留めようもなく拡散しているこの伝染病がわが国に流入する場合に招かれる結果は深刻であろう」と言明。「ウイルス感染症の伝播速度が非常に速く、潜伏期も不確定的で正確な感染ルートに対する科学的解明が不十分な状況で、わが党と政府が初期から強力に施行した措置は最も確固たるもので信頼性の高い先制的かつ決定的な防御対策であった」と「超特級措置」を自画自賛しているのである。

 そして3月3日には朝鮮中央通信が、「氷点下30度の環境でも全身と呼吸器官を保護し、細菌やウイルスの他、あらゆる毒物の侵入を防げる」という「朝鮮式防護服」が大量生産されていると報道。朝鮮中央放送は9日、北朝鮮が独自の抗ウイルス薬開発に成功したと報じた。「開発者らは、この薬は薬理的特性上、各種のウイルスに対する除去能力が極めて高いため、新型コロナウイルス感染症の治療にも効果的であるものとみている」のだという。


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