2024年4月24日(水)

ちょっと寄り道うまいもの

2012年6月21日

 作られているのは、まさに素麺という状態の卵素麺と、5センチほどの幅に切り分け、求肥昆布で束ねたその名も「たばね」という商品。

 そうそう。作りたてが美味しいというものでもないのだとか。少なくとも、1日おいた方が味が馴染み、落ち着くのだという。

 材料は砂糖と卵黄だけ。着色、香料は言うに及ばず、保存料の類も使っていない。なのに日持ちするのだ。砂糖は塩と同様、天然の保存料ではあるが、それにしても、卵黄がこの技法によって日持ちする菓子となる不思議。まさに、冷蔵技術も何もない時代の知恵だったろうと改めて気づかされる。

 さて、久しぶりの対面だ。その落ち着いたというものを食べさせてもらう。うん。甘い。やっぱり、甘い。ただ、イヤな甘さではない。品がある。抹茶を点てていただき、それと一緒に楽しんだのだが、まさにぴったり。甘さが潤いとなり、お茶が引き締めてくれる。濃いめのコーヒーに砂糖など入れずに飲みながらでもよいかもしれない。きれいな甘さに満たされる快感。

 本来、ほんの少しだけで御飯がたくさん食べられた梅干しのように、この贅沢な甘さは量を食べるものではない。ほんの少しだけで幸せな気分にひたるものである。甘い幸せ、歴史にひたる幸せの味なのだと思う。

 ところで、タイの話。それはフォイ・トーン=金の糸として知られる。アユタヤ王朝の時代、17世紀にポルトガルとベンガル、そして日本の血が混じる女性によって伝えられたとされる。日本の血とはキリシタン大名の大友氏の筋ともいわれ、平戸と縁がある。タイ以外にも、隣国カンボジア、そしてメキシコ、ブラジル等々にも同様のものがあるとか。

 食べているのはまさに世界史なのだ。大航海時代の甘い物語。

■松屋 本店
山陽新幹線博多駅から福岡市地下鉄空港線で中州川端駅下車、徒歩2分
福岡市博多区上川端町14-18
☎092(291)5244
営業時間/9時~18時

 

◆ 「ひととき」2012年5月号より


 





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